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4月23日(月)

ロック母 (講談社文庫)
『ロック母 (講談社文庫)』
角田 光代
講談社
566円(税込)
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 通勤読書は、角田光代の『ロック母』(講談社文庫)。川端康成賞を受賞した表題作を含む、1992年から2006年までに書かれた短篇集。読んでるそばから、「今、俺、すごい小説を読んでいる」という想いに全身が包まれる。

 ダービーで負け、自分のサッカーで負けた最悪の週末を忘れさせてくれる。

 とある大型書店の仕入部を覗くと、その在庫置き場のほとんどが文庫になっていた。数年前まで、いやつい最近までここにはほとんど単行本しかなかった記憶があり、そのことを仕入れの方に訊ねると「もう今は売れていくのは文庫ばかりだかね」と両手を上に開かれる。

 その後行った書店さんでも文芸書の売上の酷さを嘆かれる。
「文庫になるのがこんなに早いんじゃみんな文庫を買いますよね。それどころかもう単行本になってから文庫なるなんてシステムをお客さんが理解していないし、そうじゃない「いきなり文庫本」も出てきてるから、うまく説明もできないですよ」

 冬に着るあの暖かいフリースは、ユニクロが安価で売り出す前は、アウトドアメーカーが1万円以上で売っていた。当時カヌーをやっていた私はそのような高いフリースを買い、キャンプのたびに着ていた。アウトドアファッションの流行り始めで、山やカヌーなどアウトドアをやる人間と若い人達は、そうやってフリースを買い、着ていたのだ。

 ところがユニクロが売りだすと同時に、みんながフリースに飛びついた。主婦から高齢者から子どもまで、今や冬の定番の洋服となったが、フリースと聞いて思い浮かべる値段は1000円代か2000円代になってしまった。

 単行本も、いや特に小説で同じことが起きているような気がする。
 文庫化のスピードが速まり、ノンフィクションのように今読まなけれなならないという時代性の薄い小説は、1年半後、2年後に読んでもまったく問題ないのである。だから、文庫になるのを待って買う。それを繰り返しているうちに、お客さんの小説に対する値段は、500円から600円という意識が根付いてしまったような気がするのだ。

 いつだか取次店の知り合いに、『ホームグラウンド』を1600円にするか1500円にするか相談したとき、その人は「1500円の壁は大きいですよ」とアドバイスしてくれたけれど、実はもう500円前後かそれ以外という枠組みしかないのかもしれない。

 一度安いものを知ってしまったお客さんは、なかなかそうじゃないものを買ってくれないだろう。それでもフリースのように市場が広がってくれればいいのだが、文庫の売上は点数の割に伸びていないようだ。

 って前も書いたかな。

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