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4月27日(金)

編集王 (1) (小学館文庫 (つB-1))
『編集王 (1) (小学館文庫 (つB-1))』
土田 世紀
小学館
669円(税込)
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 外回りをしていると、事務の浜田からメールが届いた。

「漫画家の土田世紀さんが亡くなったみたいです」

 一瞬音が無くなったような気がして、しばらく道端に立ち尽くす。

 何度もこの日記に書いて来た気がするが、私の出版業界のバイブルは土田世紀の『編集王』であり、あの漫画がなければもしかしたら出版の道を目指さなかったかもしれない。

 高校を卒業し、大学には受からず浪人の身となったが、2ヶ月で予備校通いを辞め、本屋さんでアルバイトを始めた。一年半働いたが先が見えず、父親の会社を継ぐことを考え、機械設計の専門学校に入った。その学校を卒業するとき、私の頭に大きく浮かんだのはやはり本だった。本を作りたい。いや本の近くで仕事がしたい。父親を裏切ったのはその日が二度目だった。私は機械関係の職に就くことも、父親の会社を継ぐことも辞め、出版の道を目指した。

 そのとき目の前にあったのが『編集王』だった。

 専門学校卒業の私にそう簡単に出版業界の扉が開くはずがなく、新聞の求人欄や就職情報誌に掲載されている出版社、あるいは興味のある出版社に一方的に履歴書を送っては返事を待つ間、朝から晩までパチスロを打ち続けていた。2ヶ月が過ぎたとき、医学書の出版社から連絡があり、私はそこで営業マンとして拾ってもらえた。

 専門書だろうが、本を作る現場には格闘があった。良い本に仕上げるために編集者同士がケンカしていることもしょっちゅうだった。私の仕事は一番なりたくなかった営業だったけれど、『編集王』の5巻に出てくる営業マン東名氏を目指すことにした。

 本の雑誌社の社内にある資料本の棚には『編集王』全巻が並んでいる。それは私が持ち込み事あるごとに読み返していた蔵書だが、何度も何度も全巻が持ち出されることがあった。歴代の、何人もの助っ人アルバイトの学生が持ち帰り、読みふけってきたのだ。

 合掌。

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