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5月31日(木)

 午前中、浜本の車で、神保町の東京堂書店さんへ沢野画伯のイラストや「ようなもの通信」の版下、直接定期購読者向けコピー誌「本のちらし」などを運び込む。階段の壁に備え付けられたパネルにそれらを設置し、ショーウィンドウには「本の雑誌」創刊号などを並べ、明日から始まる「本の雑誌が神保町にやってきたフェア」に備える。

 とんぼ返りで会社に戻り、昨日から始まった引っ越しの準備にとりかかる。気分はすっかり断捨離で、どかどかとものを捨てていくと、営業事務の浜田や松村から「それ、捨てちゃんですかー?!」と叫び声があがるが、アイスクリームをホジホジガチャガチャするスプーンとか壊れた掛け時計とかいったいどうして取っておく必要があるのだろうか。

 3月中旬の本屋大賞発表会の準備からこの引っ越しまで慌ただしいことばかりで、本来の営業が思い通りにできずストレスが溜まっている。神保町に行けば電車の便がいいし、何より刺激がたくさんありそうなので、6月以降改めて普通の営業マンに戻って、あちこちの書店さんを訪問したいと思っている。

 そうは言っても何よりもこの終わりの見えない引っ越しを無事に終わらせなくてはならず、今は休憩ということで、経理の小林が買ってくれたお茶を飲みながらこの文章を書いているけれど、あと5分も休んだらゴミだか大切なものなのだかわからないものと格闘し、在庫を詰めた段ボールを運ばなければならない。現に今も座っている私を事務の浜田が厳しい目をして睨んでいるのだ。

 そういえばこの引っ越しの間に忘れてはならないことがあったので、それを最後に書き残しておこうと思う。

 それは前編集長の椎名さんと現編集長の浜本さんの間で交わされた会話なのだが、椎名さんのホームグラウンドである新宿から少し離れてしまうことを報告しながら浜本はこう言ったのだった。

「距離は少し離れることになりますが、椎名さんは『本の雑誌』の精神的支柱なので、これからも『本の雑誌』を優しく、時には厳しく見守っていてください。今までの歴史に恥じぬよう面白い雑誌を作って参ります」

 椎名さんは優しく頷くと、「遊びに行くからな」と社員一人一人にチベットの大切なお守りを手渡してくれた。

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