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6月21日(木)

 昨日購入した『最果てのアーケード』小川洋子(講談社)を京浜東北線の車中で広げる。

 小川洋子さんの新刊が出た時、私はそれを読みだす前に必ずあることを確認する。
 それは著者略歴のなかに「本屋大賞」の文字があるかどうかだ。その四文字を見つけた時、私は、ほっとひと安心すると同時に背筋が伸びる。

 今回もそうやって確認した後、小川ワールドの没入する。傑作。

6月20日(水)

  • ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇
  • 『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇』
    豊崎 由美
    本の雑誌社
    1,760円(税込)
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『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る!篇』搬入。

 茗渓堂の坂本さん来る。
 八戸の中里さん来る。
 不在の間に三省堂書店のUさんとO学園女子中等部の先生、穂井田直美さんと三橋暁さん来る。
 帰社すると宮田珠己さんがいる。
 夜、青土社のEさん来る。
 千客万来。売上万歳。

6月19日(火)

 長い間お世話になった笹塚の紀伊國屋書店さんへ「本の雑誌」7月号を直納。
 
 台風接近の中、営業するが三店連続空振りの三振。この路線は本日縁がないと見切りをつけ、別路線へ移動。

 所沢のオリオン書房さんで立川のノルテ店から異動になられたばかりのTさんにご挨拶。こちらのお店は7時から23時まで営業しているそうで、いやはや大変だ。その後、同じオリオン書房さんの秋津店へ。前回訪問した際は、村上春樹の全著作の再読に挑んでいたHさんは現在レイモンド・チャンドラーを読まれているとか。EUROの話でしばし盛り上がる。

 西武池袋線の秋津駅と武蔵野線の新秋津駅の間は魅力あふれる飲み屋さんがたくさんあるのだが、その誘惑と雨足に負けずに歩く。武蔵浦和の須原屋さんを覗いて、史上最弱の列車、武蔵野線が止まってしまう前に直帰。

6月18日(月)

 先週の「元春レディオショー」(NHK-FM)が60年代ブリテッシュロック特集で、そのなかでかかったThemの「Baby Please Don't Go」がとても気に入り、昼休み、神保町のディスクユニオンを覗き廃盤らしい「Them Featuring Van Morrison」を購入。不勉強で恥ずかしいのだが、U2が歌っている「Gloria」の原曲を初めて知る。そうしてThemのボーカルだったVan Morrisonの歌声に心震わせた私は、その後Van MorrisonのCDをタワーレコードで4枚購入し、毎朝、京浜東北線のなかで心を震わせているのだった。

 こういうこと、本で出来ないかなあ。

6月14日(木)

  • ラストハンター 片桐邦雄の狩猟人生とその「時代」 (みやざき文庫78)
  • 『ラストハンター 片桐邦雄の狩猟人生とその「時代」 (みやざき文庫78)』
    飯田 辰彦
    鉱脈社
    1,980円(税込)
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  • 山谷への回廊―写真家・南條直子の記憶1979ー1988 Phot
  • 『山谷への回廊―写真家・南條直子の記憶1979ー1988 Phot』
    織田 忍
    アナキズム誌編集委員会
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 笹塚時代は、新刊見本が出来上がるとその晩十数冊の本を家に持ち帰り、また翌朝それを手に取次店さんへ直行したのだが、まず最初に向かうN社がすぐそこの場所に引っ越した今、直行も見本の持ち帰りも不要になった。

 というわけで身軽に出社し、前夜用意しておいた見本を手に取次店さんを廻る。

 N社で商談を終え、エレベーターを降りたところで、青土社の営業マンE氏とバッタリ。
 神保町に引っ越したその日からE氏はなぜかもうすでに4度も本の雑誌社に遊びに来ており、時には本の雑誌社を待ち合わせ場所として利用していたりする猛者なのだが、その甘いマスクと無頼的言動とうらはらに深い文学的知識によって、本の雑誌社の女性陣を虜にしているのであった。

 先日など私が営業から戻ると、「なんだ杉江さんか、Eさんかと思った」なんて事務の浜田は肩を落とし、「本の雑誌社営業マン総選挙をしましょうか」なぞと言い出すではないか。

 というわけで、エレベーターホールで爽やかな笑顔をふりまくE氏に、「センターは譲るよ」と声をかける。

 地方小流通センターさんを訪問し、商談後、飯田辰彦『ラストハンター 片桐邦雄の狩猟人生とその「時代」」』(鉱脈社/みやざき文庫78)を購入していると、担当のKさんから「こんな本もあるよ」と教えていただく。

『山谷への回廊 写真家・南條直子の記憶1979-1988』。

 ものすごい迫力の写真に圧倒され、来月購入することを約束。

 いったん会社に戻ってから改めて出動し、図書カード3万円お買い物企画の立ち会い。

6月13日(水)

  • ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇
  • 『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇』
    豊崎 由美
    本の雑誌社
    1,760円(税込)
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 どうして神保町のメシ屋はこんなに量が多いんだろうか。

 浜本とともに「とりあえずキッチンと名の付くところは俺たちには危険だから近づかないようにしよう」と約束し、あまり繁盛していないような、あるいは学生向けでなさそうな普通のお店を探し飛び込んでいるのだが、本日入ったなんでもないラーメン屋さんもタンメンを頼むと野菜がこぼれんばかりの山盛りで出てくるではないか。

 食べ物を残すのも忍びないのだが、これだけの量を食べていたら編集の宮里潤のように後頭部に肉球が出来てしまうので、麺まで届かない状況で残す。

 東京堂書店さんでやっていただいている「本の雑誌が神保町にやってきたフェア」が好調で、二度目の追加納品。

 松戸の良文堂書店さんなどを訪問した後、6月の新刊『ガタスタ屋の矜持 寄らば斬る篇』豊崎由美著の新刊注文〆作業。

 それを終えた後、大阪から遊びに来て下さった140BのA氏と酒。
 神保町の酒場は学生が多く騒がしい。

6月12日(火)

 雨。
 総武線を営業。

 とある書店員さんと、ポップを立てても、パネルを掲げても、多面展開しても、以前のようには本が売れない現状について、それらのことをどれだけ必死にやったとしてもそれが届くのは本屋さんに来たお客さんであって、お客さんを本屋さんに来てもらうための方法を考えなければならないのではないか、なんて話を長時間する。

 夜、内澤旬子さんの展示会場イワトへ。

6月11日(月)

 恐ろしいことに昨日、日曜の昼、唐突に会社に行きたいと思った。
 そんなことはこれまでの人生で一度もなく、出来ることなら会社から遠く離れたところで、晴蹴雨読で静かに暮らしたいと願っていたはずで、どうしたことかと我がことながらに動転する。

 するとどうも会社に行きたいのではなく、神保町に行きたいと思っているらしい。新刊書店がたくさんあって、古本屋もいっぱいあって、しかもその店頭には1冊100円のワゴンがずらりと並ぶ、あの神保町が恋しいのであった。

 喜び勇んで出社すると、「本の雑誌」7月号が出来上がって来た。

 笹塚のビルは中1階というか中2階というか、エントランスから階段13段があり、これが搬入時の苦しみを生み出していたのだが、今回のビルはなんと5階なのである。しかもその1階に上がるまでわずか7段の階段があり、またもやこれが搬入地獄を生み出すのではないかと心配していたのであった。

 ところがいざ搬入と階下へ下りていくと、その階段の隣に不思議な台があり、これが小さなエレベーターというか、2階建てラーメン屋の昇降機というか、ボタンひとつで畳半畳ほどの大きさの台が上下する機械になっているではないか。

 荷物を運ぶ台車を持ってきて確かめてみるとその台にピタリと収まり、手元にあった埃まみれのボタンを押すとウイーンと静かな音を立てて、7段分の高さを運び上げていく。

 ということはかつてのように「本の雑誌」を持って階段を駆け上がることもなく、しかも車から台車に下ろしたらあとは機械で上まで運べるのだ。

 これを本の雑誌社では「神保町革命」と呼ぶことにした。

 高野秀行さんの著作三作『辺境の旅はゾウにかぎる』『世にも奇妙なマラソン大会』 『放っておいても明日は来る』の注文をいただいた、神田のいずみ店さんに直納。神保町に移って、直納範囲が広がったのもうれしい。

 そのまま東京、銀座などを営業。
 文芸書はなかなかヒット作がなく、苦しいようだ。

6月8日(金)

 先週月曜日から続いた12連続勤務も今日で終了。引っ越しの祭り感でどうにか乗り切ったが、身体は疲れすぎており、睡眠がうまく取れない。今朝も4時半に目が覚めてしまい、8キロほどランニングしてから出社。通勤読書は、宮下奈都の『窓の向こうのガーシュウィン』(集英社)。
 
 昼、目黒さんがやってくる。「どうして本の雑誌社は今まで神保町に引っ越さなかったんですか?」とこの引っ越しで浮かんだ素朴な疑問をぶつけると「椎名が新宿が好きだったからさ」とあっけない回答をいただく。確かに四谷三丁目、信濃町、新宿五丁目、新宿御苑、笹塚と新宿の周りで働いてきたのだった。

 午後から大井競馬場に出撃し、大竹聡さんの「ギャンブル酒放浪記」の取材。今まで行ってきたギャンブル場とは明らかに雰囲気が違い、若い女の子の姿がちらほら見かけ、ゴール前でも罵声でなく嬌声が飛び交っていた。

6月5日(木)

 JRを利用している私は、神保町に移転しても、利用しているのは御茶ノ水駅で、初出社から三日間は御茶ノ水駅の御茶ノ水橋口から出て、そのまま楽器屋さんのある通りを駿河台下交差点に下って通勤していたのだが、本日よりコースを変えてみる。

 聖橋口から改札を出、日販さんと丸善御茶ノ水店さんの間の「お茶の水仲通り」を歩き、太田姫稲荷神社に参拝の後右に曲がり、その後「かげろう文庫」を左折し、白水社や八木書店の前を取って、駿河台下の交差点へでる。こちらの通りのほいうが、緑が多くて気持ちいい。

 御茶ノ水界隈は15年前に働いていた会社の記憶がたくさんあり、思わずノスタルジーに襲われることがしばしばだ。毎日先輩たちと連れ立って昼食に歩いた錦華坂、サボって昼寝をしていた出版健保のロビー、社長に叱られるのがわかっていながら会議に向かうマロニエ通り、毎晩飲み歩いたあちこちの居酒屋。まるで目の前に22歳の自分が歩いているような錯覚にとらわれ、道端に佇んでしまう。

 昼、S書店のUさんがお弁当を持ってやってくる。社内にお弁当を広げるスペースがないとかで、これから本の雑誌社を休憩室として利用していただく。お気軽にどうぞ。

 その後、池袋のL書店さんへ。週末に行われる坪内祐三さんのトークイベント販売用に『三茶日記』『本日記』『書中日記』を直納。Yさんに浜本のギックリ腰を愚痴ると妙に浜本の肩を持たれる。そうか、書店員さんには腰痛持ちやギックリ腰経験者が多いので、浜本の痛みを哀れんでいるのか。なんだか面白くないので、その後の営業トークから浜本のギックリ腰ネタは外す。

 営業を終え、いったん会社に戻り、それからまた内澤旬子さんの個展をやっているイワトへ。こういうことが出来るあたりが、神保町の便利なところ。

 荷物をお届けした後、靖国通りの古本屋さんを冷やかし、1冊105円のワゴンから『影について』司修(新潮社)を引き抜き購入。

6月6日(水)

 立川を訪問するとオリオン書房ノルテ店さんは大幅にリニューアルされていて驚く。いちだんと本が探しやすくなった印象を受ける。

 その足で今度はルミネのオリオン書房さんを訪問すると、なんだか素敵な絵が並んでいる。値札がついており「最低2000円」とか「最低4500円」と書かれており、「ムサビ市場」と称した武蔵野美術大学出版局とオリオン書房ルミネ店が共同で行なっているフェアだった。

 並んでいるのは武蔵野美術大学の学生さんが書いた絵だそうで、それをオークション形式で販売しているのだそうだ。いくつか本の表紙に使いたいような絵もあり、思わず札を入れそうになる。

 そうして面白い本屋さんといえば、もはやこのお店なしに語れないのが、同じく立川の駅ビル「GRANDUO」にある「ORION PAPYRUS」だろう。気の利いた雑貨と単なるおしゃれ系の本屋さんとは一線を画す奥深い本のセレクト、今一番想像力を刺激される書店さんのひとつだ。

6月5日(火)

 白水社WEBの連載「蹴球暮らし」第28回「背番号」を更新。

 ★   ★   ★

 本日より通常の外回り復活。

 久しぶりに訪れた新百合ヶ丘の有隣堂さんは、約150坪の店内を大人気の児童書売り場を中心に、その他のジャンルも過不足なくまとめられており、売れるもの、売りたいものが丁寧に並べられた素敵なお店だった。棚も平台も面陳も整理が行き届いており、こういうお店でこそ本を買いたいと思わされる。やっぱり本がきれいに並べられたお店は気持ちいい。

 その後、遅くまで小田急線を営業。懐かしい人にまさかの再会などができ感動のまま直帰。

6月4日(月)

 16年ぶりに復活した京浜東北線通勤は、埼京線とは普通席とグリーン席なみの違いで、誰も私の肩を押してこないどころか、なんということでしょう、私の前の席が西川口駅で空き、座れたではないですか。これだけで今回の引っ越しは私にとって成功かもしれない。というわけで書店さんの間で話題になっていた『きみはいい子』中脇初枝(ポプラ社)を読了。

 新オフィスで業務スタート、と同時に来るわ来るわのお客さん。笹塚では年間13人しか遊びに来てくれなかったお客さんが次から次へと押し寄せ、その手にはみんな日本酒が握られているものだから事務の浜田は踊り狂い、ついには要冷蔵の生酒が届いた際には、「うちの会社には冷蔵庫がないから仕方ないですね」と一升瓶を傾けだしてしまったのには驚いた。これぞ神保町パワーなのか。

 すっかり酔っ払った頃、とてもスーパースターとは思えないくすんだ表情の発行人の浜本"もってる男"茂が、新オフィスに初出社。社員一同の冷ややかな目線......もとい祝福と歓迎の嵐で腰を叩かれると涙ながらに喜んでいるのであった。

 午後になり、まずは神保町初ランチは「とんかついもや」でご飯少なめのとんかつ定食を食べたあと、明日から開かれる「内澤旬子のイラストと蒐集本展」の準備作業を覗く。

そこにはこれまで内澤さんが書かれてきた膨大なイラストの他、ものすごく細かい切り絵、そして内澤さんが蒐集してきた骨董的な本が並んでいたのであった。そのすべてを見た瞬間、内澤さんの半生というか、イラストで一人の人間が生きてきた凄みのようなものに感じ入ってしまい思わず涙がこみ上げてきてしまったのだが、そんなことを内澤さんに言ったところこで「ぶはー、だったら絵の一枚でもいいから早く買いなさいよ」と言われそうなので黙って、整理作業をお手伝いしたのであった。この個展は必見です。

 必見といえば、神保町に引っ越した記念でやっていただいている東京堂書店さんでの「本の雑誌が神保町にやってきたフェア」も必見で、沢野ひとしさんの本誌掲載イラストを多数展示していただいているのはもちろん、目黒考二さんが選んだお薦め本30冊、それからかつて助っ人学生の方々が作られていた「ようなもの通信」の版下や現在の助っ人が制作している定期購読者向け機関誌「本のちらし」も合わせて展示中。

 それ以外にもサイン本や蔵出しのバックナンバーを多数販売していただいているのと、ショーウィンドウには門外不出の「本の雑誌」創刊号も展示しただいているので、ぜひぜひ皆様、東京堂書店さんを覗いた後に本の雑誌社に遊びにきてください。そこには「イタタタタ」と腰をおさえたスーパースターがいますので、是非とも腰を一発叩いた後、サインのひとつでももらって頂ければ、社員一同泣いて喜びます。

6月3日(日)

 昨日は引越し屋さんが荷物を運び込むまでで日が暮れてしまい、その時点でもはや段ボールを開ける気力もなくなり、事務の浜田は初めて神保町へ自転車で来たもんだから明るいうちに帰りたいと言い出し、大して汗もかいていない単行本編集の宮里潤は明るいうちから酒が飲みたいと訴えだし、仕方なくその時点で引越し作業終了し、神保町といえばランチョンということで、潤ちゃんとふたり、生ビールで乾杯したのであった。

 そして今日。考えてみれば休日出勤なのであるけれど、もはや休日も平日もなんだかわからず、とにかく新オフィス入り口にうず高く積まれた段ボール約100箱を開けなければ来週から仕事ができないではないかと、勤勉な営業部員2名(私と浜田)そして優秀な助っ人・鈴木センパイ3名は朝10時にオフィスの入り口に立つと、上着を脱ぎ捨て、頭にタオルを撒いて、浜田の罵声を浴びながら段ボールを開封、整理整頓の2時間1本勝負に突入したのである。

 出てくるのは基本的に本、本、本。私たちは本が好きでこの世界に入ったわけだけれど、正直にここに告白する。もう本は嫌いです。だって重いし、重いし、重いし、重いし。どうして私たちがぎっくり腰にならず、バスマジックリン野郎がぎっくり腰になったのか神のみぞ知る。というか本日も当然ながら"もってる男"スーパースターの浜本は来ない。

 しかし勤勉で単純肉体労働の得意な私たち3名は、開封作業2時間後には段ボール92箱全てを開封し(スーパースターの荷物だけはそのままにした)両手を天に突き上げると「終了!」と雄叫びをあげたのだった。

 なぜかその瞬間に編集部の松村と経理の小林と元助っ人で現在古本弁護士となったオーツカ青年がやって来たのは謎だ。謎といえば、3時半になって編集の宮里潤はやってくるなり、こちょこちょと机を拭いて「さあ、そろそろ引越し祝いに行きますか」と口元でコップを傾ける仕草をするのであった。

 16時半。ハッピーアワーと書かれた居酒屋に飛び込むと私たちは狂ったように生ビールとレモンサワーとホイスを流し込み、スーパースター浜本茂について語り明かしたのである。

6月2日(土)

 ワールド・ベースボール・クラシックでイチローは決勝戦で劇的タイムリーヒットを放ち、復興支援チャリティーマッチではキング・カズこと三浦知良はゴールを決め、ワールドカップ女子決勝戦では延長後半に同点ゴールを澤穂希が決めた。スーパースターのスーパースターたる所以は、大事なところで想像を超える結果を残す、いわゆる"もってる"人間なのであるけれど、本の雑誌社にもまさに"もってる"スーパースターがいたのである。

 それは19年間慣れ親しんだ街・笹塚から神保町へ本の雑誌社が引越す当日の朝のことであった。
 スーパースターは、自宅の駐車場で車に積んであった荷物、そう、それは前の晩に笹塚のドラッグストアで買い溜めした「バスマジックリン」12本だったのだが、それを持ち上げた瞬間、文字通り腰が「ぎっくり」と悲鳴を上げたのであった。

 「あわわわわ」と腰を抑え座り込んだスーパースターはそのまま立ち上がることが出来ず、運良く手元にあった携帯電話を取り出すと、すぐそこの自宅で掃除機をかけている妻の携帯を鳴らした。

「ぎ、ぎっくり腰になっちゃって。動けないんだけれど」

 大慌てで出てきた妻の前には、19年振りの引っ越しの朝にぎっくり腰になった"もってる"男、スーパースター浜本茂が倒れていたのである。

 ......というわけで、朝9時集合で始まった本の雑誌社の引っ越しは、会社史上初の社長不在の引っ越しとなったのである。いたほうがよかったのか、いないほうがよかったのかは、社員それぞれに訊いていただきたい。

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