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9月5日(水)

イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)
『イッツ・オンリー・トーク (文春文庫)』
絲山 秋子
文藝春秋
453円(税込)
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 また暑くなってきた。もう夏はいい。引っ込んでいて欲しい。

 通勤読書は、絲山秋子の『イッツ・オンリー・トーク』(文春文庫)再読。

 この文庫解説はかつてM書店さんなどで活躍されていた書店員・上村祐子さんが書かれているのだが、改めて読みなおしてみると刺激的な文章にあふれている。

「私は、十九歳の頃から書店員を始めて直感だけで仕事をしてきました。『イッツ・オンリー・トーク』の配本のときに、ひとめ惚れ。そういう本にはなかなか出会えないものです。最近は特に出会えません。みんな事前に知らせてくれるからです。『これ面白いよ』『初版◯千部だからさ』『映像化きまっているから』とか。自分でも事前に調べているということもありますが。もちろん恵まれた状況にあると思います。けれど次、何がおもしろいか、誰が売れるのか? そんなことどうだっていいんです、うんざりしています。あの時のように自分の勘だけで売れるものを決められたらなぁ。と切実に思っています。」

 上村さんがあの頃と振り返っているのはおそらく『イッツ・オンリー・トーク』の単行本発売時だから2004年、今から約10年だ。確かにあの頃は本が売り出される前に書店員さんにゲラが配られるなんてこともほとんどなく、またそれを読んだ感想がTwitter上で共有されるなんてこともなかった。だからあの頃書店員さんたちは、読者と同じタイミングで本を読んでいたし、多くは自分の興味のある本を読んでいたのだ。そして新刊の段ボールを開け、予想もしなかった本に出会う時、上村さんと同様に本から伝わるすべてのものを感じようと自身の勘を研ぎ澄ませていたのだ。

 今と過去とどっちが良いのかなんて比べても仕方ないし、比べようもない。そして今だって上村さんと同様に勘を研ぎすませて本を売っている書店員さんもたくさんいるだろう。ただ上村さんの結びの一文は、どんなに時が経っても、そしてそれは書店員さんだろうが出版営業マンだろうが関係なく、忘れてはいけないことだと思う。

「『本』を売ることは大変です。食べ物のように『美味しい』なんてすぐにはわからないし、しかも腐らない。『本』は一人ひとりの感動の幅が違う。だからなるべく振り幅を多く持った感性が必要です。けれど、私がなくしてはいけない、失ってはいけないものは『この小説は何としても売りたい』という直感を信じ行動に移すことだと思っています。」

 私も直感を研ぎ澄まし、行動に移していかなければならない。

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 自動販売機は「5556」だった。

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