9月30日(月)第35回講談社ノンフィクション賞授賞式
- 『謎の独立国家ソマリランド』
- 高野 秀行
- 本の雑誌社
- 2,376円(税込)
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うれしかった。たのしかった。誇らしかった。
東京會舘12階ロイヤルルームで行われた第35回講談社ノンフィクション賞授賞式では、エンタメ・ノンフ仲間の内澤旬子さんがコーディネートしたスーツを着た高野秀行さんが光り輝いていた。堂々とスピーチをこなし、にこやかにスポットライトを浴びている。歓談の時間になるとたくさんの編集者がお祝いに駆けつけ、長蛇の列が途切れることはなかった。みんな、喜んでいた。みんな、笑っていた。私も、高野さんの隣で笑っていた。どうしたって笑みがこぼれてしまう。
神保町に場所を移して行った二次会は、編集者だけでなく、高野さんの古くからの友人、知人が集まり、長年待ちわびたこの瞬間を喜んでいた。いつまでも続いて欲しいと願うほど楽しい時が流れていた。私も担当編集者ということでスピーチをさせられ、ついにこみ上げて来るものを抑えきれず、泣いてしまった。こんなに大勢の人の前で泣くなんてみっともないと思ったけれど、仕事で涙を流せるってどれだけ幸せなんだとも思いながら、高野さんと『謎の独立国家ソマリランド』について話した。上手く話せなかったけれど、もしきちんと話せたとしたらどれだけ時間があっても足りなかっただろう。
いつもなら終電を気にして欠席する三次会ももちろん顔を出した。いつまでも笑顔は消えなかった。そして日付が変わる頃、お開きとなった。武蔵野線は終わっているけれど、京浜東北線は動いている時間だった。浦和駅までたどり着ければ、あとはタクシーで2000円、歩いたって一時間だ。ポッカリ浮かぶ月を見ながら、今日は歩いて帰ろうと思った。
受賞者に用意されていたハイヤーに乗り込む高野さんを見送ろうとすると「杉江さんも乗りなよ」と肩を抱かれた。お祝いの会に駆けつけていたベテランの編集者からも「乗れ、乗れ」と背中を押される。何だかわけもわからず、人生で初めてハイヤーの助手席に乗り込んだ。その瞬間、なぜか頭の中をダースベイダーの音楽が鳴り響いた。そして猿岩石やチューヤンやなすびの顔が思い浮かんだ。
もしかしてこれって......。
電波少年?!
後部座席では世界のどこへでもビーサンで出かける辺境作家がにやついている。白い手袋をはめた運転手は、私が助手席に座った瞬間にドアをロックをした。窓の向こうには三次会まで出席した人たちが何か企んでいるような顔をして笑みを浮かべている。
そういえば高野さんといつも一緒に旅しているカメラマンの森清さんから、授賞式や二次会の間「こんどは杉江さんが高野さんとソマリアに行って珍道中ですね」と散々言われていたのだ。もしや、もしや......。私はこれからソマリアに連れて行かれるのか。
窓を開け、「助けてえーーー」と叫び声をあげようとして、考え直した。
2006年、船橋の居酒屋で行った酒飲み書店員大賞授賞式で高野秀行さんに出会ってから、私は高野さんにいろんなところへ連れていってもらったのだ。それは実際的な旅ではないけれど、営業として編集として高野さんの要求に答えているうちに、本を売るということや作るということについてたくさんのことを学んだ。そして今日はついに講談社ノンフィクション賞受賞という高みまで連れていってもらった。いや、仕事だけではない。私は高野さんと出会ってから、人間としてぐっと成長いるはずだった。
こうなったらどこまでも高野さんについて行こう。
それがソマリアだろうと、懸賞生活だろうと。