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4月3日(木)

 ここ数日、帰宅すると春休みで暇を持て余している息子が、「人生ゲーム」を広げて待っている。

 ただでさえ「書店を訪問したらどこのお店も担当者不在で一回休み」とか「届くFAXは注文書よりも返品了解書が多くて2万円払う」みたいな日常を送っているので今更人生なんて感じたくないのだけれど、妻は算数の苦手な息子がお金の計算ができるようになると喜んでおり、夕飯をかきこむと娘を交えてルーレットを回すことになる。それにしても「人生ゲーム」を推奨している妻はなぜかゲームに参加せず、因島から取り寄せたデコポンを口に放り込みテレビドラマを見ているのはどういうことだ。

 さて「人生ゲーム」である。これが父親になってやってみるとまったく違うもので、例えば息子がいきなり10を出して、「職業が決まっていなければフリーターとして社会に出る。給料はルーレットをまわし、出た数の1000倍」なんてコマに止まると、「お前、フリーターはやめておけ。どんな会社でもいいから正社員になって安定した給料をもらえるようにしなさい」なんて思わず口走ってしまう。

 それどころか娘がピンク色に塗られた「ストップ! 結婚」のコマに止り、父である私の許しも得ずにいきなり水色の結婚相手を車に乗せたときには、「お前、いったいどんな相手なんだ。いやどんな相手だろうとパパはゆるさないぞ!」と詰めより、娘から思い切りうざがられた。

 そうこうしているうちに孫が生まれ、おお、それは可愛いもんだ、ジジって呼んでいいんだよほれ小遣いあげようなんてそりゃあもう忙しくて自分の人生どころでない。

 いつの間には私の手元には約束手形が貯まり、ダントツのビリ。それでも娘や息子は「宇宙飛行士」になったり「石油王」になったりして着々と財産を増やし、幸せに暮らしているようなので、いつか私に援助してくれるだろうと思っていたのだが、終盤になってもお金は一切くれず、それどころか家も買えない私を笑い、同居も許してくれないのであった。

 ところがゲームの最終盤、私がいち早くゴールして待っているとふたりとも「夢のテーマパーク設立に投資する。$300000はらう」のコマに止まり、一気に財産を減らしてしまうではないか。おお、お前らの人生はどうなるのかと考えていると、なんと最後はルーレットをまわして宝くじに挑戦とかいって、くるくる回したら「7」が出て、私は一気に億万長者になってしまった。

 人生コツコツ生きたってしょうがない。やっぱり一発逆転だ!

 娘と息子にこんこんと説教し、パパの遺産をあてにしてもダメだぞ、パパはサッカーチームを買ってチャンピオンズリーグで優勝するんだと騒いでいると、ビリになった息子は涙を溜めて妻の元に走り、娘は自分の部屋へ去っていってしまう。

 父親になっても「人生ゲーム」をかたすのは、相変わらずめんどくさかった。

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