5月30日(金)
広島、大阪と出張に行ってきた。単行本の打ち合わせと営業だ。広島は人生で初めての訪問、大阪は昨年、高野秀行さんのトークイベントで訊ねたものの、そのときはイベント会場である本屋さんだけしか顔を出せなかった。だからできるだけ多くの書店さんに挨拶に伺おうと思い、とにかく歩いた。歩くというより駆けた。
駆けながら二十代のときの営業を思い出した。あの頃、私は毎日こうやって来た球を打つようにしてお店に飛び込んでいた。何も考えていなかった。いや考える前に名刺を差し出していた。
それがいつの間にか球種を読むようになり、ど真ん中の絶好球でも、読みが当たっていなければ見逃し、三振しても口笛を吹いてベンチに戻っていた。それでも成績が下がらなかったのは、二十代、三十代の頑張りがあったからだ。あの頃植えた種が今大きく花を咲かせ、実を結んでいた。
確かに四十代の今は収穫する時期だとは思うけれど、この実がいつか絶えることに気づいていた。5年後、10年後、何もできなくなっている姿が目に浮かび、怖くなった。それでもどうすることができなくて毎日空回りしていた。
大阪の街を走りながら、その解決法がどこにあるのか思い出した。
そうだった、そうだった、営業ってそうだよねと階段につまづきながら、いつの間にか笑っていた。もう一度、スタートラインに立とう。