8月21日(木)
家に帰ると、塾の夏期講習に行ってるはずの娘の靴が玄関に並んでいた。
具合でも悪いのかとリビングを覗くと、そこには疲れ切った表情をした妻がひとり立っていた。
我が全神経がすぐさま退去せよと緊急警報鳴らしているが、もう逃げられる状況ではなかった。
妻は私をロックオンすると今日の午後起こったことを一気に話しだした。
塾に行こうとした娘は夏期講習のテキストが見つからず大騒ぎしだし、しまいには勝手に荷物を整理する妻に逆ギレしたらしい。そしてよくよく聞いてみれば中学校の夏休みの宿題をほとんどやっておらず、塾に行くどころじゃなくなったという。
これは報告のように見えて実は命令なのである。娘が風呂から出てきたら、舐め切られている自分に変わって叱り飛ばせという厳命なのだ。
そうは言っても私はその場に居なかったから腹は立っていないのである。怒っていないのに怒るにはどうしたらいいのか。浜本とか浜田の顔を思い浮かべればいいのだろうか。いや今日はたいして二人と接していないから怒りも何も湧いて来ない。うーん、しかしここで怒らなければ妻の怒りが私に向かってくる可能性が大きい。
悩んでいると娘が風呂から上がってきた。
場の空気がおかしいのは理解しているようで、すぐにリビングのテーブルに広げた宿題にかかりだす。
妻が私のことを見つめている。
ゴール前にボールを出したのだからゴールを決めろということらしい。
あっ! 浦和レッズのことを思いだせばいいのだ。リーグでは首位というもののここ数試合敗戦も多く、また勝利した日もすっきりしない勝ち方ばかり。引いた相手にぐだぐだボールを回す消極的サッカーも見飽きているのだ。それどころか昨日の天皇杯ではJ2のザスパクサツ群馬に逆転負けし、2年連続の3回転敗退を期したのであった。
ああああ、ムカムカしてきた!
「こら! お前、何してんだ! 塾も行かねーでテキストなくしやがって、しかもそれを母ちゃんのせいにするとはどういうことだ! どうしていつも同じ交代しかしねーーんだよ。原口元気の穴埋めの補強はないのかよ!! えっ! 優勝する気あるのかよ、おい答えてみよろ、こら!!!」