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11月18日(火)

工作舎物語 眠りたくなかった時代
『工作舎物語 眠りたくなかった時代』
臼田 捷治
左右社
2,376円(税込)
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 通勤読書は、『工作舎物語』臼田捷治(左右社)。
 工作舎といえば松岡正剛や杉浦康平といった人たちが携わった「遊」が有名なのだろうが、90年代の初めに自然科学書の売り場でアルバイトしていた私にとっては『タオ自然学』やら『生命潮流』の出版社だった。レジに差し出されたそれらの本は独特の存在感を示し、工作舎というの名前が頭に刻まれた。

 この本はその独特な存在感がどのように生まれ育まれていったのか松岡正剛をはじめ、松田行正や祖父江慎ら工作舎に関わった人たちにインタビューし、エネルギーの源泉を辿って行く出版社史だ。目指していたものを考えると、『本の雑誌風雲録』とまったく対局にある出版社史といえるかもしれない。

 読んでいて胸が熱くなったのであるけれど、それと同時に哀しくもなった。おそらく今、当時工作舎に集まったような若者は出版社に足を運ばないだろうと。なぜならもう出版社には、ほとんど余白(可能性)が残されていないからだ。原価やマーケティングや流通にしばられ、作れるものは工業製品と変わらなくなってしまった。

 やはり成長していく業界にするにはもっと新規参入がしやすくしなれければならない、なんて本を読みながら考えていたのだけれど、『ROADSIDE BOOKS』で都築響一さんが取り上げている『張り込み日記』(roshin books)のような出版物は、ネットの普及により、より自由に出版できるようになっているのだった。要するに私の感覚がいわゆる<出版業界>という括りのなかだけでものを考えているのであり、それに気づいて別の意味でいちだんと哀しくなってしまう。

 夜、内藤誠監督、坪内祐三原作・主演の『酒中日記』の0号試写を観に、ザムザ阿佐ヶ谷へ。
 実は私、長年のサッカー観戦から45分しか集中のもたない身体になってしまっており、それを越える時間を拘束される映画鑑賞は苦痛というか45分を過ぎたところから飽きてしまうのであった。

 だから会場に向かう電車のなかで、一緒に行く浜本に寝てしまったらどうしようと心配し、ただ飲んでいるだけ(であろう)で映画になるんですかねと不安がっていたのだ。ところが、いざ始まってみたら、これが面白いのなんの。内藤監督初(らしい)の3台のカメラで迫るストリートシネマ(というそうです)は、強烈な酒飲み感が漂い、都築響一さん、杉作J太郎さん、中原昌也さん、重松清さんといった助演男優賞候補の名演(酩酊)に、前・後半どころか延長PK戦にもつれる140分間、浜本とともに笑い転げてしまった。

 上映は来年3月、テアトル新宿ほか。さりげなく(もなく)何度も映る浜本茂にも乞うご期待。

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