« 2015年1月 | 2015年2月 | 2015年3月 »

2月24日(火)

 帰宅後、ランニング。

 来週日曜日ハーフマラソンに挑戦する。マラソン大会に出るのは人生で初めてで、長距離をたくさんの人と走るのは中学校の持久走大会以来だ。そのときは仲間と3人でおしゃべりしながら走り(歩き)、ゴールラインの手前で誰が先にゴールするかじゃんけんで決めていたら体育教官に飛び蹴りされた。それがトラウマになって、高校は持久走大会のない学校を選び、運良く長距離走とは無縁の人生を送れるようになったのである。

 それが今から7年前、2008年のことだった。何の迷いか走ってみるかとスニーカーを履いて通りに出た。3キロくらいと思ったものが、これが中学校時代以上に苦しいもので、足はまったく上がらず、息は吐くばかりで吸えず、心臓は暴発するのではないかと脈打ち、1.5キロほどで走るのはやめた。いや走れなくなった。翌日は階段を下りれず家族に笑われた。もう二度と走るもんかと思ったが、三日後にまた走っていた。理由はわからない。強いてあげるならば始めたことを続けるより、やめることのほうが難しかったのかもしれない。

 それ以来走り続けている。走ることに慣れてからは週に30〜40キロ、月にして100キロ以上走っている。中学校の5キロコースも走りきれず、いつも先生の目を盗み、同級生を口止めし3キロコースに短縮していた自分からしたら、朝起きたら毒虫になっていたくらいの変化である。そして私だけでなく、そういう毒虫になった同年代の人たちがたくさんいる。最近走ってる?なんて会話が普通に成立するのだ。10代で走っているのは陸上部だけだった。人間は年を重ねるとランナーになっていくのだろうか。

 年を重ねるごとに同様に変化があるものに味覚というものがある。私は子どもの頃おでんが大嫌いだった。夕餉の時刻、いや前夜、台所から大根を煮る匂いがしてくると、持久走大会前夜のような気分に陥った。明日がこなければいいのにと何度も寝返りをうった。おでんはおかずにならなった。大根もつみれもボールもみんな同じ味だった。唯一ウインナー巻だけが私が欲していた肉に近かった。不平不満を母親にこぼしても状況は変わらず、それどころか父親は「熱燗をつけてくれ」なんて嬉しそうな表情を浮かべ、おでんの湯気の向こうで笑っていた。そんな父親を見て、私はつまらない大人にはなりたくないと誓った。

 それがいつのことだろう。おそらくランニングを始めた頃と同じ30代半ばだろうが、冬になるとおでんが食卓にあがるのを楽しみにするようになった。楽しみにするどころか妻に催促するようになっていた。「おでん食べたいんだけど」しかし妻は「子どもたちが嫌がるのよ」と言って首を振る。そうやっておでんを待つ日々が続いているのだが、私はそれをランニング同様、老化による味覚の変化だと考えていた。しかしそうではないことに今日気づいた。

 それは競争である。ランニングもおでんも競争がないのだ。そういうと川内優輝が42.195キロのゴールとともに倒れる姿を思い浮かべる人もいるかもしれないが、あれは競技マラソンである。私のようにただ走るランニングには、サッカーや野球のように相手や敵はいない。ただ走りたいように走る。誰とも競わず、自分のペースで走る。疲れたと思ったら歩みを止め、もうちょっと走れそうだと思えば早く走ればいい。ペースが自分にあるということがこれほど素晴らしいことだと気づくのに、約35年かかった。それまでは誰かと競い勝つことが楽しいことだと思っていた。

 おでんも同じだ。おでんには奪い合いがない。強いて挙げるなら玉子と大根は人気かもしれないが、たいていそれらは人数分鍋に入っている。そして二つ以上食べたがる人も少ない。これが10代、20代の頃愛していた焼き肉やすき焼きだったらどうだろうか。視線は一極集中「肉」である。肉を求めてすべての箸が動く。食卓はコロシアムであり、競争になってしまう。

 そういう競争に疲れた人間は、ランニングがいい。おでんがいい。ハーフマラソンも競争せず、自分のペースで走る所存だ。

2月23日(月)

  • 東京ロック・バー物語
  • 『東京ロック・バー物語』
    和田靜香
    シンコーミュージック
    1,650円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 もっとも嫌いなのは要件を言わずにスケジュールを訊いてくる人。ある種の誘導尋問であり、ある種の詐欺。

 そういう失礼な人間に対し、いつも「要件は何ですか?」と訊き返すようにしている。相手はたいてい口ごもる。言いづらいから隠しているわけだ。本日もあわやろくでもないことを押し付けられそうになる。しかも休日に。ありえん。

 腸が煮えくり返ったので営業で冷やす。
 下北沢の三省堂書店さんの平台で思わず手にとったのは『東京ロック・バー物語』和田静香(シンコーミュージック)。お気に入りのラジオを聴くようにこういうお店に通えたら幸せかもしれない。

 松戸と綾瀬の良文堂書店さんで、出版社の営業マンが「これは売れる!」と選書、手製のPOPを付けてその売上数を競う「出版営業ガチンコ対決 Round-13」がスタート。私のプライドは守られるのか!? お近くの方はぜひ!

DSCN5737.JPG

2月17日(火)

 昨日、今日と「本の雑誌」3月号の追加注文を受け、直納に勤しむ。売れるのは嬉しいけれど本を処分する特集の号が売れるとは。もしや本を作るよりも本の処分代行ビジネスをやった方が儲かるのかもしれない。

 営業で訪問した書店さんで伊坂幸太郎さんの新刊『火星に住むつもりかい』(光文社)を発見。David Bowieを聴きながら読もう。

2月16日(月)

  • 園芸家の一年 (平凡社ライブラリー)
  • 『園芸家の一年 (平凡社ライブラリー)』
    カレル チャペック,〓apek,Karel,周, 飯島
    平凡社
    1,320円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto
  • Original Album Classics
  • 『Original Album Classics』
    Winter, Johnny
    Sony UK
  • 商品を購入する
    Amazon
    HMV&BOOKS

 昨日ロスタイムに決めた決勝ゴールを頭のなかで何度も再生巻き戻し再生巻き戻しを繰り返しながら出社。

 通勤で読んでいたのはカレル・チャペックの『園芸家の一年』(平凡社ライブラリー)。なんで今更? ってこれまで誰も教えてくれなかったんだよ、こんなに面白いって!!! 何の気なしに手にとって、1ページ目を読みだして驚いたさ。うちには庭なんて1平米もないけどこのエッセイは死ぬほど面白いって。電車のなかで周りがひくほど、くたくた笑ってしまったよ。

 なんで今更? といえばiPodで聴いているのはJohnny Winter。これも今まで誰も教えてくれなかったんだよ、こんなにカッチョイイ、ギターロック&ブルースがあったなんて。Johnny Winterの曲があれば一週間雨が降り続いても生きていけるって気づいたね。

 ちなみにJohnny Winterを教えてくれたのはラジオ。毎晩聴いてるinterFMの「The Dave Fromm Show」で流れて一聴惚れして、Twitterで曲名とアーティストをお気に入りに入れて、それで買ったわけ。何年か前から意識的に月に一枚はアルバムを買うことって決めているんだけど、そこで買うのはほとんどラジオで聴いて良かった曲なんだ。ラジオ→Twitterでメモ→iTunesで試聴→リスト作ってCDショップorジャニスor Amazonというのが行動パターン。

 で、ずっと考えているのは本にとってラジオに当たるのは「なにか」ってこと。あるいはその「なにか」を作りたいってこと。毎日新しい本の話に触れたい。本の話に触れ続けていたい。「本の雑誌」日刊にする?

2月13日(金)

 夜、泣く。
 こたつにうずくまって泣く。
 自分のあまりの教養のなさに、頭の悪さに、ただただ悲しくなって泣く。

2月12日(木)

 直行で大宮にあるラジオ局「FM NACK5」のスタジオへ。休み前に突然高野秀行さんから『恋するソマリア』の発売記念で「おとこラジオ」に出演するから覗きに来ない?と誘いを受けたのだ。

 すぐに三人による収録が始まり、高野さんの海外取材のこぼれ話が語られ、外で聴いている私も思わず腹を抱えて笑ってしまったり、へえそうなんだと驚いてみたり。ただ、なかなか新刊の話題が始まらず、番組の終演が迫ろうとしていた。それではここに来た意味がないではないか。早く宣伝を、本の宣伝をと叫びそうになったとき、大野勢太郎さんが『恋するソマリア』を手にし紹介が始まる。
 ほっ。

「この1月に発売されたばかりの新刊、高野秀行著『恋するソマリア』集英社刊.........」
 しゅ、集英社......。
 そうだった......。
『恋するソマリア』は本の雑誌社の本でなく、集英社だったのだ。

 私はいったいここで何をしているんだろうか。これでは本当に単なる野次馬ではないか。まあ「おとこラジオ」のリスナーだからこれほど幸せなこともないんだけれど、高野さんはどうして私を誘ったのだろうか。もしかして高野さんもどこから出版したのか忘れているのかもしれない。

 番組の収録は無事終わり、高野さんとふたり京浜東北線に乗車する。しかし高野さんから何ら説明はない。それどころか突然「本の雑誌社に定年はあるの?」なんて訊いてくる。そんなことを訊かれてもこれまで誰一人として定年まで勤めた社員はいないのだからあるのかないのかわからないし、そもそも定年と思われる年齢まで会社が存続しているなんて考えたこともない。

 私が首をかしげていると「もしかして従業員規則とかないの?」と笑みを浮かべて訊いてくる。従業員規則? それは天竺にあると言われているやつか。かつて勤めていた社員が探しに行ったままいまだ戻っていないという。

 高野さんとは秋葉原で別れ、私は営業へ。

 夜、レッズサポでもある印刷会社の営業マンKさんと浦和駅で待ち合わせ。前から行ってみたかった居酒屋「弁慶」に向かう。運良く二人分だけ席が空いており、待たずに入店。何もかもウマウマ。笑顔も最高。興奮して久しぶりに酒を飲んでしまう。

 22時、Kさんと浦和駅で別れ、私はバスで帰宅することに。そのバスが揺れ、絶対に負けられない闘いが始まる。上から出て来そうなものを必死になって飲み込んでいると、こんどは下腹部でも闘いが始まってしまう。どっちか選ぶならどっちだろうか。脂汗を流しながら考える。
 どうにか降車するバス停までは持ちこたえる。
 しかし家は遠い。あまりに遠かった。

2月10日(火)

 銀座の教文館さんを訪問すると階段の壁面に来月発売される又吉直樹の新刊『火花』(文藝春秋)の手作り告知チラシが貼り巡らされていた。訊けば「文學界」創刊以来初の増刷となった掲載号も追加を含めて売り切れ、問い合わせも多いことから単行本の予約を促すためにやっているそうだ。反応も上々だとか。こういった本を一冊売るための惜しみない努力の積み重ねによって、教文館さんは今年130周年迎える。

 そして、夕方会社に戻ると、とんでもないものが!
 なんと本日誕生日を迎えた娘の名前とメッセージ入りの道尾秀介さんのサイン本。作家生活10周年記念作品『透明カメレオン』(KADOKAWA)の販促のため、本日神保町の書店さんを訪問されていたそうなのだが、その際、同行していたブルドーザー営業マン・ヘンミーが「どうせここまで来たなら」と本の雑誌社へもお連れしてくれたそうなのだ。

 というわけで、家に帰り、娘に誕生日プレゼントとして渡す。
 娘、絶叫。
 そりゃあ絶叫するよな。

 道尾さん、ヘンミー、ありがとうございました。

2月9日(月)

  • フットボール・アカデミー (1) ユナイテッド入団! MFジェイクの挑戦
  • 『フットボール・アカデミー (1) ユナイテッド入団! MFジェイクの挑戦』
    トム パーマー,岡本 正樹,石崎 洋司
    岩崎書店
    990円(税込)
  • 商品を購入する
    Amazon
    HonyaClub
    HMV&BOOKS
    honto

 飯嶋和一の6年ぶりの新刊『狗賓童子の島』(小学館)を読んでいると通勤があっという間。会社の隣に住んでいるような錯覚に陥る。

 それにしてもこれだけ密度の濃い小説を読んでしまったら次にどんな本が読めるのだろうかと読んでいるそばから心配になってくる。太刀打ちできるのは本体価格640円で文庫化された横山秀夫の『64』(文春文庫)くらいだろうか。単行本で読んでいるのだが、だいぶ書き直されたそうなので、次は『64』を文庫で再読か...。

 そういえばまもなく14歳の誕生日を迎える娘は、週末におじいちゃんとおばあちゃんからプレゼント代わりにお小遣いをもらうと、すぐさま近所のツタヤへ向かい、「続き読みたかったんだよね」と『神去なあなあ夜話』三浦しをん(徳間書店)を買って来たのだった。

 そして息子はそんなお姉ちゃんの姿を見て、「僕も欲しい本があるんだけど、この辺で売ってないから買って来て欲しい」と人生で初めてゲームの攻略本以外の本を欲しがったのだ。

 午前中、週末に行われた蔵前BOOK MARKETの売上報告。二日間とも開店の11時から閉店の18時まで本を求めるお客さんで超満員。都心からややはずれに位置し、周囲にそれらしいスポットもない雑居ビルの5階で行われるたった20社程度のイベントなのに。しかも値引販売もないのだ。

 これは主催のアノニマ・スタジオさんへ寄せられる信頼も大きいと思うのだけれど、もしや出版不況というのは出版業界の人たちが自分たちの箱のなかで勝手に作り上げた妄想なのではなかろうか。あるいは自分たちの能力不足を「出版不況」という言葉で言い訳しているに過ぎないのかもしれない。

「本」本来の力というのはまったく衰えていない、ということをこのイベントで思い知った。

 午後、『謎の独立国家ソマリランド』と『猪変』を紀伊國屋書店新宿南店さんとブックファースト新宿ルミネ店さんに直納。その後、中央線を営業。中央線は、高円寺の高架下にブックスタマさんがオープンしたり、荻窪のブックセンターさんが閉店したりと移り変わりが激しくなっている。


 息子が欲しがっていた『フットボール・アカデミー』トム・パーマー著/石崎洋司訳(岩崎書店)を購入し、帰宅。

« 2015年1月 | 2015年2月 | 2015年3月 »