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6月27日(月)

 朝、机を拭いていると事務の浜田が、目を充血させて出社してくる。

「どうしたの?」
「昨日も外れちゃって...」
「えっ?」
「日曜日に競馬の宝塚記念があったんです...」

 もしやまた目黒さんの予想を信じて馬券を買ったのだろうか。

「メールが届いたんですよ、目黒さんから。『朗報』って件名で」
「......」
「『日頃の感謝をこめて、渾身の宝塚記念予想を送ります』って書き出しで、その後、えんえんと予想が書いてありました。最後には『今年上半期の総決算、宝塚記念で夢をつかもう! グッドラックだ!』って結ばれていたんです」
「買ったの?」
「買いましたよ。だってグッドラックですよ。幸せになれると思うじゃないですか」
「それって壺売りつける人と一緒じゃん。あの人達も『幸運を』って必ず言うでしょう」

 浜田は下を向いてしまった。

「それで当たったの?」
「当りませんよ......。当たるわけないじゃないですか」
「じゃあ、なんで買うんだよ」
「だってかわいそうじゃないですか。きっともう、誰も目黒さんの予想なんて信じてくれないんですよ。だから最後に残った私ぐらいは買ってあげないと...」
「それは同情できないね」
「私に同情しなくていいんです。でも目黒さんには同情してあげてください」
「なんで?」
「だって、本当に当たらないんですよ。今回、目黒さんが本命にした馬、17頭中16着のブービーなんですよ。その前の安田記念も本命にした馬が12頭中11着のブービーで、そんな馬を本命に予想するほうが難しくないですか」

 もしかすると目黒さんは、競馬はブービーを当てるものだと思っているのかもしれない。

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