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7月1日(金)

徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男
『徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男』
木村 元彦
集英社
1,944円(税込)
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「乗り越えられる試練しか与えない」というけれど、私利私欲を捨て、人のために生き、こんなに徳を積んでいるというのに、いったい神様は今西和男にどほれどの試練を与えたら許してくれるのだろうか。

 徹夜で読み終えた木村元彦『徳は孤ならず 日本サッカーの育将 今西和男』(集英社)は、木村氏が「育将」と名づけた今西和男の人物伝でありつつ、Jリーグのクラブライセンス制度の問題点とその権力に群がる人間たちの腐った精神を浮き彫りにする告発の書であった。

 明け方読み終えた後も感動と慟哭でとても眠る気になれず、またすぐ冒頭から読み返したくなるほどの傑作だ。今年度【元祖】サッカー本大賞であり、「サッカー」というジャンルに拘らずノンフィクションとしてもNo1間違いなし。

  特にこの秋から始まるバスケットボールのプロリーグ「B.LEAGUE」に注目している人は必ず読んだほうがいい。あなたがこれから生活のすべてをかけて応援するリーグが、どんな人物によって運営されるのか知っておくべきだ。
 
 サッカーが好きというよりは、浦和レッズが好きな私は、今西和男といってもその名前くらいしか知らなかったのだけれど、この本でインタビューされているなかだけでも、森保一、久保竜彦、風間八宏、高木琢也、森山佳郎といった日本代表レベルの選手を見出し、育ててきた偉大なる人物なのであった。

 しかも今西氏の場合、育てるといっても単なるプレイヤーとして育てるのではなく、「サッカー選手である前に、良き社会人であれ」と人間としてきちんと引退後も生きていけるよう育てるのであり、しかも一度面倒を見た人間を裏切ることなく、セカンドキャリアの面倒まで見ているのだ。それはトップの選手だけでなく、トップチームにあがれなかったユースの子たちの世話もしているのだ。

 だから多くの選手やスタッフが今西氏のことを恩師と呼び、何かあれば報告し、困ったことがあれば相談する。その相談に応えるのが今西氏なのである。これまで木村元彦氏が心酔し、『オシムの言葉』など何度も描いて来たイビチャ・オシムと変わらぬ大人物なのであった。

 しかしだからといって厚遇されたわけではなかった。特に縁もゆかりもない土地で、身を削りチーム存続に尽力を注いだFC岐阜時代の、Jリーグによるパワハラは、読んでるこちらが怒りに打ち震え、愚か者に天罰がくだるよう祈ってしまうほど酷い仕打ちを受けたのである。

 それでも今西氏はそのことを多くは語らず、本書では木村元彦氏の執念の取材において、衝撃的な事実が浮き彫りにされるのであった。そういう意味では、サッカー版『殺人犯はそこにいる』清水潔(新潮文庫)なのだ。

 タイトルの『徳は孤ならず』は論語の「徳不孤 必有隣」(徳は孤ならず 必ず隣あり)である。その意味は、カバー袖に書かれているとおり、「本当に徳のある高潔な人物は、決して孤立したままでいることはない。必ず理解してくれる隣人たちが集まってくる」だ。

 確かに今西氏にはたくさん隣人が集まっている。しかしその功績を考えたら、まだまだ多くの隣人があってしかるべきだと思う。この本をひとりでも多くの人が読み、隣人になることを願う。

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