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11月20日(日)

ヘダップ!
『ヘダップ!』
三羽 省吾
新潮社
1,728円(税込)
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 高1の娘に誘われ、浦和レッズの練習場である大原サッカー場へ小6の息子と昨日から我が家に泊まっている息子の友だちと自転車で向かう。

 今日は練習後にファンサービスを行うそうで、娘は先日のイベントで撮った関根選手の写真にサインをもらいたいらしい。娘も息子もすっかりレッズサポになっていてビックリする。彼ら彼女らの人生が、クラブチームという鎖につがれてしまったことが幸せなのかどうかわからない。

 私はこれまで20年以上浦和レッズを愛しているのだけれど、正直にいえば選手自身にはほとんど興味がない。いや試合で戦っている選手には興味どころか関心重大であるけれど、練習はもちろんオフでいる選手はどうでもいい。サインをもらいたいとか仲良くなりたいとか何か伝えたいとか思ったことがない。伝えたいことはたいていスタジアムで伝えているし、そのうち半分くらいは面と向かって言えるようなことではない。

 というわけで私はファンサービスの列には並ばず、チャンピオンシップを目前に控えた練習を観ていた。簡単なアップから鳥かご、ロングキック、そしてグラウンドを半分にしてのミニゲーム。観ている分には簡単そうだけれど、通常の半分に通常と同じ数だけの選手がいるわけで、相当なボールコントロール、判断力がなければあの中でボールを蹴ることはできないだろう。ときおりミシャ監督が練習を止め、DFラインでボールを回しながら逆サイドにボールを入れるタイミングを指示しているようだった。

 練習は80分ほどで終了し、ファンサービスの列に選手がやってくる。小6の息子が、ルヴァンカップの決勝後に買った興梠選手の背番号が入ったユニフォームを手に「興梠選手!」と大きな声で呼びかけると興梠選手はマジックを手にしてくれた。息子は大興奮で目を濡らしている。

 娘は続いてやってきた関根選手にサインをもらいながらなにやら手紙を渡し、頬を赤く染めている。突然連れてこられた息子の友だちにはちょうど買ってあった色紙を渡しておいたところ、なんと12人もの選手のサインをもらっていた。

 400人くらいのファンがいたのだろうか。あちこちで選手を呼び止める声があがり、多くの選手が長い時間をかけ、サインに応えていた。私も娘に腕を引っ張られ、今最もスタジアムで熱視線を送っている駒井選手からマッチデーカードにサインをもらった。興奮して振り返ると、息子の友だちが色紙を息子に見せながら話しかけている。

「やばいよ、オレ。この色紙一生の宝物にするよ」

 昨日読み終えた三羽省吾『ヘダップ!』(新潮社)は、この浦和レッズがいるJ1リーグから数えたら4つほど下のカテゴリーJFLを舞台にしたひとりの雑草組サッカー選手の成長小説である。JFLというカテゴリーならではのエピソードや展開はあるものの、すべてのサッカークラブ、そしてサッカーを愛する人にとって最も大切なものが描かれた傑作サッカー小説である。

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