6月15日(木)憧れの"行きつけの店"に行く日
朝9時に出社すると1階の三和図書のOさんから「今停電になりましたよ」と声をかけられる。そういえば点検だかなんだかで雑居ビル全体が停電すると知らせが入っていたような。階段で5階に上がると営業のパソコンのバックアップシステムが停電を知らせる異常音を鳴らしていたが止める方法はわからないので、そのまま『新・ニッポン分断時代』の見本を持って、取次店さんへ。
若干混雑しており、搬入は予定より一日遅れ。お茶の水の日販、飯田橋のトーハン、後楽園の大阪屋栗田、市ヶ谷の地方小と駆けまわり、昼過ぎに帰社。12時半より座談会の収録にギリギリセーフ。
新刊見本を提出するとどうしても気持ちに一息ついてしまい、その後はダラダラと社内で過ごしていると、晶文社の麺喰い島田さんから教わり、私が最近偏愛吹聴している八重山そばの「みやら製麺」を食してきた求龍堂のYさんがやってきて「いやー美味しかった!」と大興奮。豚骨と鰹のダシの効いたアツアツのつゆを一口飲めば、まるで実家に帰ってきたような優しさが胃袋に染み渡り、自家製そばをもそもそと口に運ぶと食事をする悦びに包まれる。神保町行列麺店の丸香(さぬきうどん)と違わぬ感動の美味さ。
夜は、坪松博之さんと『Y先生と競馬』刊行お疲れ様会。なんと坪松さんが招待してくれたのは、Y先生こと山口瞳氏が『行きつけの店』でまず一番に取り上げた「鉢巻岡田」。しかも通された部屋には山口瞳氏の直筆原稿「不老ふう」がさり気なく飾られているのである。
山口瞳氏の著作を偏愛している私にとって人生で一度は訪れてみたかったお店なのだけれど、まさか山口瞳氏の作品の登場人物である「坪やん」と訪問できることになるとは夢にも思わず、感動に打ち震える。
しかもお店が足を崩していいのかわからないような高級料亭ではなく、まさに山口瞳氏が愛しそうな日常のなかの上級なお店で、若いころの氏が「鉢巻岡田」を学校と呼ぶようにここにはきっと本物の「大人」がたくさん通っているのだろう。
岡田茶わん、鮎塩焼き、粟麩田楽、海老の揚げ真丈、穴子蒲焼きなどなど(当然ながらすべて美味)に加え菊正宗の樽酒。そして何より坪松さんとの愉しい会話。
これを幸福と呼ばずなんと呼べばいいのか。諸君、この人生、たまには幸せなんだ。