9月11日(月)
「パパ、パパーーー!!」という妻の悲鳴で飛び起きる。
階段を駆け上がると、食卓で妻が中一の息子の背中をバンバンと叩いている。「喉に!」という叫び声の中、息子は口を開けて、白目を剥いていた。
妻に変わって背中を叩こうとしたとき、息子の口からおえっと大きな塊が出てきた。バナナだった。
「息できるか?」と聞くも息子は放心状態で、言葉が出ない。
しかし顔色は戻り、肩を激しく揺らしている。妻は床にへたり込み、荒い息をつきながら先ほどまで必死に息子の背中を叩いた手をじっと見つめた。
うがいさせるため息子を洗面所へ連れていく。手と口元を洗い、水を注いだコップを渡す。ガラガラと喉を鳴らすも息子はまったく口をきかない。鏡に写る自分が実際に存在しているのか疑うように見つめている。
「怖かったか。もう大丈夫だぞ」と肩を抱くと、突然大きな声で泣き出した。身体を小刻みに震わす息子を強く抱きしめる。泣き止むまで抱きしめ続ける。
仕事に向かっても動悸が治らなかった。打ち合わせ中も会議中も営業中もずっと息子のことを考えていた。もし上手く吐き出せなかったら、もし妻が異変に気づかなかったら......。
自分が立っている場所は、想像しているよりもずっと不安定なのだった。