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4月20日(火)

 昨夜、息子が学校から帰ってくると、通学に使っている自転車がなんだかおかしいという。調べてみると変速機が後輪にあたって擦れており、タイヤを外してみたり、チェーンを付け直してみたりしたところ、さらに状況はひどくなり、真っ黒になった手をお手上げしたのだった。

 今朝になって夜のうちに小人が直してくれていた、なんてことはなく、息子には私の自転車で学校に行かせ、私は息子の自転車の後輪を持ち上げ転がしながら、「修理大好き」の看板を掲げる自転車屋さんに向かったのだった。

 その自転車屋さんというのは、いつぞやこの日記にも書いたことがあるような気がするのだけれど、ずっと昔娘が小さかった時に公園で遊んでいて自転車の鍵を失くしてしまい、鍵のかかった自転車をひとり引きずり帰ってきたことがあった。

 娘は小さな身体をさらに小さくして、「鍵失くしちゃった」と報告してきたのだけれど、娘の自転車を見たら、遠くからずっと引きずって来たせいで、後輪のタイヤがすっかり擦り切れていたのだ。

 その自転車を持って、「修理大好き」を掲げる自転車屋さんを尋ねると、そこには作業着を着たおじさんがいて、「おお、これは大変だったよ。お父さんもここまで持ち上げて来るの大変だったでしょう。小学生の娘さんならもっと大変だよ。よくがんばったなあ」とつぶやいたのだった。

 あっという間にタイヤの交換は終わり、そうして店に並ぶ自転車を指差しながら「今度買うときはさ、量販店であんまり安いのじゃなくて、ちゃんとこさえられた自転車買ってね。タイヤもさ、全然保ちが違うから」と笑うのだった。

 娘に買い与えた自転車はまさしく量販店で一番安い自転車だったので恥ずかしくなりつつも、ついつい聞きたがりの性格が出て、「そんなに違うもんですか?」と質問したところから、おじさんはそれぞれの自転車のパーツを指差しながら、そのメーカーと工場の場所、部品の特徴などをとくとくと語り出したのだった。

 息子がママチャリでなく、ロードバイクが欲しいと言い出したのは、2年前の中学3年生のときだった。部活の遠征や塾に通うのに自転車に乗ることが増え、おそらく友達はみなギアがついたロードバイクに乗っていたのだろう。

 お年玉があるから自分で買うという息子に私はひとつの条件を出した。それがこの自転車屋さんで買うことだった。

 額を流れ落ちる汗を拭くこともできず、上着を着ていることを後悔し始めた頃、やっと自転車屋さんにたどり着く。店内を覗き込むと、床を掃除していたおじさんが「どうした?」と店を出て、自転車を覗き込んだ。変速機がタイヤに当たることを話すと、「ああ、どこかにぶつけるか倒れるかしてディレイラーハンガーが曲がっちゃったんだよ」と言って、すぐに修理を始めた。

 あっという間だった。何やら棒状の道具を取り付けくくっと力を加えるとタイヤはくるくると快調に回りだしたのだ。まるで魔法を見ているようだった。

 自転車屋のおじさんは、「とりあえずこれで大丈夫だけど、心配だから部品取り寄せておくね。届いたら電話するから」といって、今日の修理代は受け取らなかった。

 足の届かぬ自転車に乗り、ペダルに力を入れる。ハンドルについたレバーを押すと、変速機が音を立てギアを変える。そういえば私は、ああいう人になりたかったんだ。

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