岩波書店の児童書編集者Sさんから見てもらいたい本がある。という連絡をいただいた。なんだろう、と訝しむもSさんの仕事を尊敬しているので、すぐに来店していただいた。いま手掛けている本なのだということで手渡されたゲラはいわゆるグラフィックノベルだった。アメリカのコミックである。岩波書店がコミックを刊行するのは初めての試みのようだ。ヒーローがバトルを繰り広げる類のものではない。バトル?たしかにバトルではない。だがその本に描きこまれていたのは紛うことなく「たたかい」ではあった。
『MARCH』が描くのは、黒人への人種差別があたりまえのように行われていたかつてのアメリカ。
その非道は想像を絶するものがある。白人至上主義を掲げる団体KKKの跳梁は最たるものだ。そんな時代背景を伝えつつ、視点になっている人物がジョン・ルイス。著者の一人であり、現在もアメリカで議員の職にある黒人だ。ルイスは若くして運動に身を投じる。その根本原理として「非暴力」を貫く。その活動は、大きなうねりとなっていく。「たたかい」の軌跡はとにかく読んで瞠目していただきたい。
私はSさんがおしえてくれたこの本の出版経緯、グラフィックノベルという形式をとった理由が気になった。ルイス、幼き日に彼自身もまた一冊のグラフィックノベルに触発された経験を持っているそうだ。その内容がどういうものだったかは知らないが、一冊の本が一人を行動に駆り立て、それを継承していくために新たなる一冊が世に出されたということに感じるものがあった。
フェアを行う。『MARCH』を中心に据えて、黒人とは誰なのか、なにとたたかってきたのか、どのような境遇に置かれてきたのか、さまざまな本を並べてかんがえたいのだ。黒人への差別は過去の話?一部の狂った白人の暴挙だった?私たち日本人には関係ない?そのような無関心と無理解が小さな悪意を育て、新たなる差別の温床になる。
私たちにも夢がある。さまざまな本と出会える場を提供し、ありとあらゆる差別を寄せ付けない知の種を蒔きつづけたいのだ。
開催日時 | 2018年5月1日から5月31日 |
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会場 | ブックスルーエ一階雑誌フェア台 |
問い合わせ先 | 0422(22)5677 担当花本 |