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  • ミステリマニア書店員が薦めるこの新人のミステリーがすごい!第2回
    「22歳の熟練と京極夏彦の系譜をつぐ新人」

まだまだ続く、オススメの新人ミステリ作品。ふたりの止まらぬミステリ愛を連続公開だ!


高…高橋美里  宇…宇田川拓也

ベンハムの独楽
『ベンハムの独楽』
小島 達矢
新潮社
1,365円(税込)
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>> 本やタウン
宇:
新人ミステリがすごい! 略して「新ミス」の筆頭は『ベンハムの独楽』小島達矢(新潮社)です。
このタイトルになっている“ベンハムの独楽”って知ってる? 独楽の側面に違う絵を入れておいて、まわすと違う景色が見えるっていう独楽なんだけど、この作品もそれと同じで、9編の作品が入ってて、それぞれが全然違う切り口なんだけど……。
高:
あ、本当にある独楽なんですね、ということはその様式と同じなんですね、この作品は。
宇:
この作品は新潮エンターテイメント大賞という、作家さんが一人で選考をやってる賞の受賞作で、今回は荻原浩さんが選考を担当されて659作品の中からの見事大賞を受賞してデビュー。これがなんと若干22歳! とてもそうとは思えないくらい達者でした。
高:
伊坂幸太郎さんのデビュー作を読んだ時みたいな感覚で読んでましたよ、なんだかとても新鮮でした。
宇:
そうですね、伊坂さん風味も桜庭一樹さんの風味もかすめながら、最後きちんとこの作品、この作者ならではの風味になってますよね。
高:
連作短編で切り口が違って、気の滅入る話もあれば、ミステリの仕掛けのある作品もあるし、心のあったまる話もあるし……。
宇:
作品の長さも均一じゃなくて、すごく短い話もあれば、8編目の「コットン・キャンディー」は長めの作品ですよね。
高:
描き方も、子供の言葉で書かれた「ストロベリー・ドリームズ」なんかは面白いことやってるなーと思いましたね。
宇:
装丁もすごく凝ってるんだよ、これ! 帯がね……(めくってみる)
高:
そうそう! これは是非店頭で見てほしいですね! ちなみにこの中で、どの作品が一番好きでした?
宇:
「チョコレートチップ・シースター」が好きでしたねー。「傘なくしちゃって…」(作中の人物の真似)
高:
「大事な傘だったの?」(笑)(同じく真似)
宇:
ちゃんと語ってしまうとネタバレになっちゃうから言えないんだけど、これがまたいいんですよね。
高:
読み終わったら誰かと話がしたくなる。私が好きだったのは「ストロベリー・ドリームズ」ですかね、あの悪意たっぷりな話が忘れられない。癖になりそう。
宇:
この本は『ベンハムの独楽』って言うタイトルなのに、表題作はないんだよね。
高:
無貌伝 ~双児の子ら~
『無貌伝 ~双児の子ら~』
望月 守宮
講談社
1,260円(税込)
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タイトルが様式で……つまり、構成されてる9つの作品で書かれる全体像を表してるっていうことですかね。かなり独特なつくりの1冊ですね! では次の「新ミス」は第40回メフィスト賞受賞作『無貌伝』望月守宮(講談社ノベルス)でいきましょうか。舞台は1950年代、人と“ヒトデナシ”という怪異が存在する日本。“ヒトデナシ”である怪盗・無貌は「人の顔を盗む」力を持ち、何者にもなれるという恐れられる存在。その無貌に顔を奪われた名探偵・秋津の元に届いた無貌からの犯行予告……。これすごく好きなんですよ!
宇:
モダンな雰囲気もノスタルジックな部分も取り入れてるし、そういった部分をうまく使っててミステリ的な仕掛けもある。
高:
世界やキャラクタの見せ方もしっかりしてますよね。
宇:
でも今のラノベやキャラクタ小説のような売れ方をしてるかというと違うし、じゃあミステリマニアがすべからく読んでるかというとそうでもない。
高:
デビューした時に、講談社ノベルスの広告とか結構大きく出てたからもっと注目されるかと思ってたんだけど……。『無貌伝』ってカッコイイと思うんですよ、 タイトルも気になるじゃないですか。
宇:
う~ん、この売れ行き不振はノベルス自体に勢いがなくなってきているからかなあ……。
高:
でも、小説読みでこの時代背景が好きな人っていると思うんですよね。
宇:
京極夏彦さんやライトな感じだと田代裕彦さんの「平井骸骨」シリーズ(富士見ミステリ文庫)なんか、そういう路線だと思うんですよ。場面の描写もキャラクタの見栄もかっこいいんだよねぇ。
高:
そうそう。探偵役も、無貌っていう謎の怪物も存在感がすごい。
宇:
まずそういう話なんだって読者に気がついてもらうことが大事だよね、きっと。キャラクタの印象付けや見せ場をわかりやすくするために、たとえば菊地秀行さんの作品とかでは大事なシーンにはちゃんとイラストが入ってましたよね。
高:
POPに書くとしたら「京極の次はこれだ!」かなぁ?(笑) でも京極さんの次っていうにはもう時間が経ち過ぎちゃってるからね。それに「西尾維新さん絶句」、って帯に書いてあって、西尾作品の読者はあれだけいるのに、そこで読者が入ってこないのが残念です。西尾さんのエンタ心を信じてついてこい! と。入口はそこここにあると思うので是非くぐっていただきたいです。