第1回「震撼する神がかり的名作」

Page 2 神々しい手塚作品。神業の大友作品

神々しさすら感じる『火の鳥』
神業的完成度の『AKIRA』

火の鳥(1) (手塚治虫漫画全集)
『火の鳥(1) (手塚治虫漫画全集)』
手塚 治虫
講談社
577円(税込)
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「神がかり」というと、やはり手塚治虫のライフワークである『火の鳥』を外すわけにはいきません。本当は真っ先に挙げたいくらい、これぞまさに「神がかり」のお手本のような作品です。

物語は、全生命体のエネルギーの象徴である「火の鳥」を軸に展開されます。紀元前という古代から、35世紀という超未来の間を行き来しながら、人間の"業"や"生命"の本質を描く壮大さは手塚作品ならでは。神のように俯瞰した視点から、過去と未来を行き来し、地球だけではなく時には宇宙を舞台としたスケール感は、マンガという枠すらも超越したもの。あくまでもエンターテインメント作品でありながら、軽々しく触れてはならない神々しさ――"畏(おそ)れ"を感じさせるマンガです。

実はこの作品の第1回が世に出たのは、1954年(昭和29年)のこと。まだ、ジャンプもマガジンもない、マンガ文化の黎明期に描かれています。もし手塚治虫が現代に生まれていたなら、ここまで壮大なスケールの作品を発表し続けられたかどうか......。混沌としながらもマグマのように熱い時代のエネルギーが、手塚治虫というマンガ作家の背中を後押ししたような気がしてなりません。

『火の鳥』も『AKIRA』も
「神がかり」の王道である

AKIRA(1) (KCデラックス ヤングマガジン)
『AKIRA(1) (KCデラックス ヤングマガジン)』
大友 克洋
講談社
1,080円(税込)
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"未来"、"畏れ"というキーワードで言うと、1980年代にブームを巻き起こした『AKIRA』(大友克洋)も外せません。第三次世界大戦後の日本の首都「ネオ東京」を舞台にした近未来SFマンガで、国内外で一大ブームを巻き起こしました。

核兵器を超えるほどの超能力を持った少年「アキラ」を巡り、国家という集団の利益と、個の尊厳が激しくぶつかり合うというストーリーで、近未来という舞台×リアルに描き込まれたタッチ×展開のドライブ感が相乗効果となって、読者に迫ってきます。20年以上前に描かれたマンガにも関わらず、今読んでも"近未来"が感じられる衝撃的な作品です。

『火の鳥』、『AKIRA』という2作も、主人公のキャラクターは決して濃くありません。基本的には、火の鳥は俯瞰した視点から人間を見るという"物語のナビゲーター役"ですし、『AKIRA』に至っては、「アキラ」という名前の少年は主人公ですらありません(笑)。ストーリー上の主人公である金田や鉄雄も、むしろ地味なキャラクター。金田はある時期にほとんど登場しなくなりますし、鉄雄も普段はおとなしい性格のキャラクターとして描かれている。しかしだからこそ、物語が際だつのです。テーマがあり、それに沿った珠玉のストーリーがある。日本のマンガ史で高く評される両作は、まさに「神がかった作品」の王道とも言うべき文脈上にあるのです。

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