第1回「震撼する神がかり的名作」
Page 3 心をえぐる『デビルマン』、『TWIM』
人間の恐ろしさを直視させられる
『デビルマン』と『ザ・ワールド・イズ・マイン』
- 『デビルマン(1) (講談社漫画文庫)』
- 永井 豪,ダイナミックプロ
- 講談社
- 630円(税込)
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人の心の内面を掘り下げた「神がかり作品」もあります。例えば、『デビルマン』(永井豪)。大学生当時にコミックスを読んだとき、アニメ版とのあまりの違いに、ギターで後頭部をガンと殴られたような衝撃を受けました。聖書の預言書「黙示録」のような内容で、より直接的に"終末"を扱うなどテーマも重い。後半に描かれた恐ろしく残虐なシーンも、人間の心の闇とも言える集団心理の愚かしさを表現するには必要だったのでしょう。人間の心の奥底には、それほどおどろおどろしい"悪魔"が棲んでいるという現実を見せつけられる一作です。
同じように人間心理の暗部を描いたマンガとして『ザ・ワールド・イズ・マイン(TWIM)』(新井英樹)も、ぜひ取り上げたい!! さしたる理由もなしに人を殺していく主人公のモンと、正体不明の巨大生物ヒグマドンが人類に与える"脅威"を中心に物語が展開する1990年代後半の名作です。
「神がかり作」の主人公は
ヒーローにあらず!!
- 『真説 ザ・ワールド・イズ・マイン (1)巻 (ビームコミックス)』
- 新井 英樹
- エンターブレイン
- 1,382円(税込)
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この作品では、現代に生きるさまざまな人の姿が、次々登場するサブキャラクターひとりひとりに投影されている。個としての人間、集団になったときの人間、国家に属する国民としての人間など、さまざまな切り口から人間の心の内面に斬り込み、「お前は何者だ」、「世界は誰のものだ」というテーマを突きつけてくる。その上、ラストシーンは「なぜ、こんな展開が思いつくのか?」と絶句するほどとんでもない。名ゼリフの宝庫のような新井英樹作品のなかでも、この一作は本当に神がかっている。近年、再評価されているようで、ファンとしてはうれしい限りです。
この2作の主人公――『デビルマン』の不動明や『TWIM』のモンも、一見ヒーローとも言える描かれ方をしていますが、実は彼らは物語を読者に伝える媒介に過ぎない。壮大なストーリーを伝えるための必要な装置なんです。キャラありきではなく、物語ありき。僕が「神がかっている」と感じる作品には、そんな共通項があるのかもしれません。