第2回「いま読むべき! 時代の空気を感じるマンガ2009」

Page 1 いまそこにある格差を描く 『闇金ウシジマくん』

いまそこにある格差を描く『闇金ウシジマくん』

闇金ウシジマくん 1 (ビッグコミックス)
『闇金ウシジマくん 1 (ビッグコミックス)』
真鍋 昌平
小学館
545円(税込)
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マンガには、その"時代"を象徴するようなトピックが描かれ、その描かれ方にもまた"時代"が反映される――。まるで禅問答のようですが、マンガが反映する"時代"はそれほど多面的なもの。扱うテーマからストーリーの構成、舞台設定、作画方法など、さまざまな形でマンガに時代は反映されます。

マンガの柱となるテーマ/ストーリーに"現代"が反映されている最近の作品と言えば、まず『闇金ウシジマくん』(真鍋昌平)を挙げたいところ。物語が展開される舞台は10日で5割の暴利を貪る"闇金融"カウカウファイナンス。その経営者が"主人公"の「丑嶋」――つまり「ウシジマくん」です。

とはいえ、ストーリー上の主役は「ウシジマくん」ではありません。事実上の主役は、闇金に手を出し雪だるま式に借金が膨らんでいく社会の底辺にいる人間たち。実際、作中に丑嶋が登場しない回も少なからずあり、むしろカネを借りる債務者の物語とも言えるでしょう。各編の主役には「出会いカフェくん」、「ギャル汚くん」、「フリーターくん」など、現代ならではのキーワードがてんこ盛り。主役の愚かしさとともに、誰もが一歩間違えば「闇金地獄」に陥る可能性も描かれています。

物語のナビゲーターでありながら
現代人の病理をも体現する主人公

では、作品タイトルにもなっている「丑嶋」の役割は何か。例えるなら『世にも奇妙な物語』でのタモリのような位置づけ――つまり前回の「神がかり的作品」にも通じる、物語のナビゲーターでありナレーターのような役割を丑嶋は背負っています。

23歳にして闇金を経営する丑嶋は、抜群の判断力と行動力がありながらも、無慈悲で暴力的。各編の"主役"である債務者に対しても、冷徹に貸し付けと取り立てを行うのみ。腕力にモノを言わせることはあっても、感情を露わにすることはほとんどありません。しかしごくたまに丑嶋も人間臭い顔を覗かせます。ペットのウサギを溺愛し、休みにはその世話に没頭する。カネという絶対的基準の裏側で噴出する情緒。丑嶋のいびつさは、現代人――とりわけ東京に生きる人を象徴しているとも言えます。

綿密な取材を窺わせる"今"というディテールは、2009年という今だからこそ読み手に届くに違いありません。感じるのは共感か、それとも嫌悪か。『闇金ウシジマくん』は、読み手自身のスタンスすら明らかにしてしまう。覚悟とともに、対峙していただきたい作品です。

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