第2回「いま読むべき! 時代の空気を感じるマンガ2009」

Page 2 『ホムンクルス』に描かれた現代人のココロの闇

『ホムンクルス』に描かれた現代人のココロの闇

ホムンクルス 1 (BIG SPIRITS COMICS)
『ホムンクルス 1 (BIG SPIRITS COMICS)』
山本 英夫
小学館
566円(税込)
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『闇金ウシジマくん』と同じような構造を持つ作品に『ホムンクルス』(山本英夫)があります。主人公の名越進は、元・外資系金融マンのホームレス。その主人公が、ある日医大生の伊藤学と出会い、額の頭蓋骨に穴を開ける"トレパネーション"という手術を受ける。すると、第六感が芽生え、他人の本質が形――"ホムンクルス"となって見えるという設定でストーリーは進んでいきます。

ネタバレにならない程度のサブキャラクターでわかりやすい例を挙げると、権威主義の医者ならば「国」と書かれたリードにつながれた犬に見え、下半身でカネを稼ぐ娼婦は腰が金庫に見えるといった具合です。

実は『ホムンクルス』も作者本人が実際にホームレス体験をするなど、ディテールにリアリティが込められている作品です。数年前に、作者の山本英夫さんから裏話を伺ったことがありますが、トレパネーション自体、一部世界では実際に行われてきたという歴史や、脳の圧力が変わることで被験者の"意識"も変わるという説もあるそうです。

「いま、何が起きているのか」
作者の視座を代弁する主人公たち

作中では、ホムンクルスは「幻覚」であり、「妄想」であり、「歪み」だと描かれています。しかし「幻覚」や「妄想」はそれと自覚しなければ真実にもなり得る。「歪み」にしても、単なる特徴だという解釈もできるでしょう。そんな"解釈"の狭間をたゆたうように、物語は展開していきます。

これは少し危うい考え方なのでしょうが、『ホムンクルス』を読んだとき、「俺が穴を開けたら、世界はどう見えるんだろう」と想像してしまいました。僕も音楽を生業とする以上、クリエイティビティは必要ですし、人並み外れた感覚や神秘的な力への憧れもあります。外見からはわからない人間の心を形として見る。誰もが一度は憧れる「人の心を覗きたい」という力を持ったとき、現代人の心はどんなホムンクルスに見えるのか。

『闇金ウシジマくん』の丑嶋も、『ホムンクルス』の主人公である名越も、ともに作者の視点を読者に伝えるフィルターとしての機能を果たしています。来歴は描き込まれず、ある種の現代社会の象徴として描かれた丑嶋。「元外資系金融マン→ホームレス」という風に、その裏にある物語を匂わせつつ人物像を絞り込まれた名越。それぞれ違いはあれど、彼らがあぶり出す対象は現代社会の縮図であり、そこに生きる人間の心の深奥です。今後、物語がどう展開され、どんなエンディングを迎えるのかを予想しながら、リアルタイムで読み込む愉しさをも存分に味わわせてくれる2作品です。

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