第4回「ヤル気の劇薬になる名作マンガ」

Page 3 感性を緻密に刺激する『Dr.スランプ』

突出したテンションとオチの『激烈バカ』

激烈バカ―オールスター復活祭 (ミリオンコミックス)
『激烈バカ―オールスター復活祭 (ミリオンコミックス)』
斉藤 富士夫
大洋図書
401円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV

『青春少年マガジン1978~1983』は感慨を新たにしながら「俺もヤルぜ!」と気合いの入るマンガですが、何も考えずただたただテンションを上げたい時もあるでしょう。そんなときには『激烈バカ』(斉藤富士夫)のような作品もぜひ読んでいただきたい!

基本的な作風としては、エロと多少のグロをちりばめた不条理系のショートストーリーと言えばいいのでしょうか。俺からしてみればたいしたエログロではないものの(笑)、何とこのマンガが連載されていたのは1988~1994年の『週刊少年マガジン』。日本を代表する少年マンガ誌に、「これで足とチ○ポをまちがうことはないぞ!」、「オマ○コ!セ○クス! うわー!!」という表現が平然と誌面を飾っていた。現代では必然性もない――正確に言うと大人にその理由を説明しづらいエログロ表現が少年誌に掲載されることは考えづらいのですが、そんな無軌道なまでに突出した表現こそが、無条件にテンションを上げてくれることもある。某スポーツ用品メーカーのキャッチコピー、"Impossible is Nothing"――「不可能なんてあり得ない」ではありませんが、この作品には「あり得ないなんてあり得ない」というある種、哲学的な訴えかけがあるようにすら感じられます。

もっとも哲学的というには、『激烈バカ』はそのタイトル通り、あまりにもバカバカしい(笑)。その内容は実に......。いや、この作品については、あまり多くは語らない方がいいのかもしれません。ひとつだけ言えることは、とにかく顔面から汗や涙、鼻水などあらゆる液体が分泌されまくる、強烈な画風だということ。ちなみにこの作家には他にも『頭がビッグバン』という強烈なタイトルの作品もあって、いつもタイトル、内容ともに突き抜けまくっています。このところ、あまり新作を見かけませんが、ぜひまた斉藤富士夫ブームを巻き起こしてほしい。少なくとも、ゲキコミ的には『激烈バカ』ブームがすぐそこまでやってきています(笑)。

感性を緻密に刺激する『Dr.スランプ』

Dr.スランプ (第1巻) (ジャンプ・コミックス)
『Dr.スランプ (第1巻) (ジャンプ・コミックス)』
鳥山 明
集英社
421円(税込)
商品を購入する
>> Amazon.co.jp
>> HonyaClub.com
>> ローソンHMV

「感情の動物」とも言われる人間がメンタルのバランスを保ち続けるのは、実に難しいことですが『Dr.スランプ』(鳥山明)はそんな人間心理を軽々と超越します。お気に入りの絵本(『納豆侍 まめ太郎でござる』(漫画兄弟)もよろしく!)を読み聞かされた赤ちゃんのように自動的に気分がアガるまさに名作です。アラレちゃんをはじめ、千兵衛、ガッちゃんなど、立ちまくったキャラ設定。加えて『ドラゴンクエスト』シリーズのキャラクター・モンスターデザインも手がけた作画力は、「鬼の編集者」として知られた、担当の鳥嶋和彦氏に「背景が必要ないほどデッサンがしっかりしている」と激賞されたほどだといいます。あ、ちなみに鳥嶋氏は「Dr.マシリト」としても作中のキャラにも登場しています。

もとい。何より『Dr.スランプ』は完成されたオリジナルな世界観を構築していました。つまり、現実世界のしがらみから解放されていた。いつもスクーターに乗っているリーゼントにサングラスの空豆タロウやポニーテールの木緑あかねのファッションなんて、いつの時代の流行なのかすらわからない。「世界中のどこかにペンギン村があったら、楽しいだろうな」と思わせるほど時代や空間を超越した世界観があったのです。

驚くべきは、それほどの完成度を誇るこの作品が、鳥山明という作家の連載デビュー作だということ。これほどの新人作家は、不世出かもしれない。そう感じるほどの圧倒的な作画力やキャラとともに構築された世界観は、いつ読んでもすっげぇいい気分にさせてくれます。感性を刺激するのはあくまでも「魂」ですが、卓越した技術が良作を極上のエンターテインメントに押し上げていくという好例でしょう。

「PENICILLIN HAKUEIのゲキコミ」トップページBackNumber