第6回「マンガ初心者&食わず嫌いに読ませたい名作」

Page 1 『ピアノの森』にはマンガのすべてが詰まっている

『ピアノの森』にはマンガのすべてが詰まっている

ピアノの森 1 (モーニングKC (1429))
『ピアノの森 1 (モーニングKC (1429))』
一色 まこと
講談社
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ピアノの森(16) (モーニング KC)
『ピアノの森(16) (モーニング KC)』
一色 まこと
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モノを人にオススメするのは、難しいものです。とりわけマンガとなると、難度トリプルA級とも言えるほど難しい! 実写のドラマや映画のように、好みの俳優や女優を切り口にするわけにもいかないし、マンガの場合、ストーリーがどんなに素晴らしくても、絵のタッチの好き嫌いというハードルもある。

しか~し! 恐れずに飛び込むだけの価値がマンガにはあります! 現在、国内では年間5億冊以上のコミックスが流通し、1万点以上のタイトル・巻が発行されています。つまりそれは幅広い作風の作品がリリースされているということ。その1万点のなかには必ず、誰かにとって「初めての1冊」になるマンガがあるはずです。といっても読みやすい、読みにくい作品はあるでしょう。今回は、老若男女問わずおすすめできる作品から紹介していきます。

まずは『ピアノの森』(一色まこと)。まだ未完作ですが、少なくとも既刊分については手放しで激賞させていただきたい。「マンガなんてつまらない」、「マンガって難しそうで」などという、おおざっぱなアンチや初心者がいたら、片っ端から首根っこをひっつかんで「うちに読みに来い!」と言いたいほど、マンガの魅力が詰め込まれている作品です。

ストーリーは、昔で言う"赤線"の名残のようなエリアに生まれた美形の主人公、一ノ瀬海(いちのせ・かい)が世界的ピアニストとして成長していく様を描いていきます。マンガ初心者にもオススメできるポイントは数限りなく挙げられますが、整理してみると......。

・嫌悪感を覚えにくい、すっきりとかわいらしい描線
・人間的な魅力にあふれたバリエーション豊かな主要キャラクター
・各章ごとにしっかり完結するストーリー展開
・にもかかわらず、前章までの伏線を拾いながら、次章への伏線も効かせている
・全体のストーリー構成も起伏に富んでいる
・「ピアノ」のディテールの細やかな描写
・さわやかな読後感

などが挙げられます。要素が多いので「整理しきれていない!」と叱られそうですが(笑)、『ピアノの森』はそれほどの魅力にあふれている。ネタバレを避けるために、内容についてはキーワードのみの羅列とさせていただきますが、努力、友情、勝利、成長、不遇、恋愛模様、嫉妬心、ライバル関係、親子関係、師弟関係、非情なる事故......。それら膨大な要素すべてが見事なアンサンブルを奏でます。まさにクラシックの名曲のような計算され尽くした美しさは、ストーリーを設計し終えてから連載をスタートさせたのではと思えるほどの見事な展開。しかも、肩ひじを張って読むような作品ではなく、クスリと笑えるシーンも数多く描かれていて、エンターテインメントとしての魅力にもあふれている。マンガ初心者にはうってつけの作品に違いありません。

『ちびまる子ちゃん』に見るリアルな子ども像

ちびまる子ちゃん (1) (りぼんマスコットコミックス (413))
『ちびまる子ちゃん (1) (りぼんマスコットコミックス (413))』
さくら ももこ
集英社
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もはや国民的アニメといえる『ちびまる子ちゃん』(さくらももこ)の原作コミックスも、マンガ初心者におすすめできるマンガのひとつでしょう。

アニメ版ではほのぼのとした昭和らしい雰囲気が強調されていますが、マンガ版は作者の幼少時の回想録的な性格がさらに強い。「妙に大人びた子ども」というまる子のキャラクターは、原作のほうがはるかにエッジの効いた、子どもならではの感情がリアルに描かれています。

自分の少年時代を振り返ってみても、実は子どもは大人が想像するほど、無垢な生き物ではないような気がします。大人になると忘れてしまいがちですが、子どもという生き物は純粋でありながらも、時に計算高かったり、邪悪で残酷な一面もある。まる子が感じる素朴な疑問や過剰な自意識は、実は誰もが持っている記憶ではないでしょうか。

そんな世界観が描かれたマンガ版『まる子』は、無邪気だからこそ残酷な子どもと、浅はかな大人の思惑という、深読みしようと思えばできてしまうヘビーさも持ち合わせている。しかしそのヘビー感をヘタウマな絵のタッチが和らげるという絶妙なバランスも楽しめるのも、マンガ版『ちびまる子ちゃん』の醍醐味とも言えるでしょう。

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