第7回「“ジャンル”を築いた名作たち」

Page 3 "てんとう虫"の表名作と裏名作

愛され続けて30年――『あさりちゃん』

あさりちゃん (第1巻) (てんとう虫コミックス)
『あさりちゃん (第1巻) (てんとう虫コミックス)』
室山 まゆみ
小学館
409円(税込)
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あさりちゃん 90 (てんとう虫コミックス)
『あさりちゃん 90 (てんとう虫コミックス)』
室山 まゆみ
小学館
421円(税込)
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1978年に連載がはじまった『あさりちゃん』(室山まゆみ)も、ギャグマンガにおいてはエポックメーキング作として数えられる存在です。すべての世代――老若男女に受け入れられる"ロングセラーギャグマンガ"というと、本作の独壇場でしょう。

例えば、"最長巻数マンガ"として知られる『こちら亀有公園前派出所』(秋本治)は、この2年前に連載がスタートしています。しかしオタク的とも言える内容は女性やお年寄りにはわかりづらいかもしれません。ギャグマンガというジャンルを確立した赤塚不二夫にしても、最長作の『おそ松くん』が休載時期を含めても約8年程度。一方『あさりちゃん』は1978年から30年以上という長期に渡り連載を続け、重ねた巻数は何と90巻に到達しています。

にもかかわらず、不思議なほどに古くささを感じない。作品全編に流れるドタバタギャグテイストは連載開始当初と何ら変わらないのに、『サザエさん』や『ちびまる子ちゃん』から感じる"昭和中期"という雰囲気が非常に薄いのです。連載を続けるうちにタッチが少し変わっていったり、途中から一人称が「わたし」から「あさちゃん」に変化したりという程度の変化はありますが、連載開始当初からの作風をひたすらにキープし続けています。最新の情報を追うでなく、ノスタルジーに頼るでなく、ただひたすらに浜野家の30年以上を描き続けた、ほとんど奇跡のような作品です。

しかもその読者層は驚くほど広い。僕もつい買ってしまうのですが、どこで買うかというと東京駅! 地方に行くとき、東京駅の売店に置いてあるのを見ると、うっかり買い込んでしまうのです。出張するビジネスマン向けのアイテムばかりが充実している東京駅の売店には、少女マンガ、学童マンガにカテゴライズされる作品はほとんど置かれていない。すべての世代を惹きつける唯一のロングセラーギャグマンガだからこそ、東京駅という特殊な売り場の棚にも置かれるのです。

パクリと下ネタを徹底したオリジナル――『超人キンタマン』

超人キンタマン 1 (てんとう虫コミックス)
『超人キンタマン 1 (てんとう虫コミックス)』
立石 佳太
小学館
388円(税込)
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マンガ界において数々のタブーを蹴散らした、僕も大好きなエポックメーキング作品、それが『超人キンタマン』(立石佳太)です。

この作品は1981年から1987年まで『コロコロコミック』という小学生向けのマンガ誌に連載されていました。『コロコロコミック』と言えば、かの国民的マンガ『ドラえもん』(藤子不二雄)が連載されていた健全なマンガ誌というイメージがあるかもしれません。

しかし同誌には1986年から連載された『おぼっちゃまくん』(小林よしのり)のように、PTAからクレームのつく下品なマンガもそれなりに掲載されていました。その代表作がこの『超人キンタマン』。その上この作品は、ただ下ネタを連発するだけでなく、さまざまなタブーに踏み込んだ問題作だったのです。

まず、下ネタという面から言うと、そもそもキャラクターの名前からして、言わずもがな。強烈な下ネタっぷりを発揮してくれています。主人公はもちろん「キンタマン」。漢字で書くと金太満ですが、読みはあくまでも「キンタマン」です(笑)。家族の名前も徹底していて、父は「金太舞次郎(きんた・まいじろう)」、母親は「金太真無代(きんた・まないよ)」、そして祖父は「金太真黒以造(きんた・まくろいぞう)」で、そのいとこは「金太真草以造(きんた・まくさいぞう)」......。解説するまでもありません。小学生が狂喜乱舞しそうな名前をこれでもかと採用しています。

キャラクターのネーミングだけでも、当時のPTAのお母さん方が激昂しそうなものですが、『超人キンタマン』のすごさはそれだけにとどまりません。キンタマンの見た目自体、どこからどう見てもウルトラマンに他なりませんし、ご丁寧に父親のビジュアルはウルトラの父、母親はウルトラの母。さらには「オガンダム」という明らかに例のモビルスーツをモチーフとしたキャラクターまで登場させ、「お祈り戦士オガンダム・えぐりあい宇宙」という、元ネタが一撃でわかるようなストーリーまで展開していました。

さすがに問題が発生したのか、途中からキャラクターデザインが微妙に変わり、名前も「バカラス」に変更されましたが、これもどことなく超時空要塞系のネーミングですし、その兄の「アホラス」もウルトラ兄弟に酷似した名前があったような気が......。

他にも本作品には「お面ライダーマン」というとんでもないキャラクターが登場します。衣装は4代目仮面ライダーである「ライダーマン」そのもの。しかもその衣装を1980年に少年ジャンプ誌上で連載がスタートした、超人気マンガの準主役に着せてしまったのです。そう。あのアフロヘアの"自称天才科学博士"に体型といい、間抜けなキャラクターといいウリふたつ。他にもあの「ナウい」、「イモね」、「ダサい」が口グセのあの子にそっくりなキャラも登場します。

近代マンガで、ここまでさまざまな角度からタブーを犯しまくった作品などそうそうありません。残念というか当然というか、後に続く勇気のある作品はメジャー誌では見かけませんし、『超人キンタマン』のコミックス自体、古書店やマンガ喫茶でもほとんど見かけることはありません。しかしその面白さは僕が保証します。見かけたらぜひ手にとって頂きたい、超衝撃的な作品です。

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