第9回「マンガ大賞2010 極私的ノミネート作品」

Page 1 『宇宙兄弟』が描く"漢気"

『宇宙兄弟』が描く“漢気”

宇宙兄弟(1) (モーニング KC)
『宇宙兄弟(1) (モーニング KC)』
小山 宙哉
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書店員をはじめとする"各界のマンガ好き"が「今、この瞬間いちばん面白いマンガを決める」。「マンガ大賞」という漫画賞はそうしたコンセプトで、2008年に立ち上げられました。そして僕、HAKUEIも今年から選考委員に参加することに! 先輩選考委員のみなさん、新参者ですがよろしくお願いします。

誰に挨拶しているのかはさておき、そんなわけで今回は僕が「マンガ大賞2010」にノミネートしたはずの作品を紹介しておきましょう。「したはず」というのは、候補作の提出がこの原稿を書いている翌日だから。サシカエがあったら、次回ゲキコミでご報告します。

さて、この1年くらい、僕のなかでずっとブームが続いているのが『週刊モーニング』で連載中の『宇宙兄弟』(小山宙哉)。物語は、幼い頃、「2人で宇宙飛行士になろう」と約束した兄弟が、大人になり宇宙飛行士を目指すというところから始まります。

マンガ作品は「絵のわかりやすさ/楽しさ」、「ストーリーの練り込まれ方/奇抜さ」、「キャラクターの立ちっぷり」など様々な要素で構成されています。『宇宙兄弟』はそうしたマンガの楽しさがすべて凝縮されたと言ってもいいほど、高いレベルで成立している希有なマンガと言えます。

例えば、キャラクターひとつとっても主人公の南波六太(なんば・むった)には、ある意味"昭和感"とも言えそうな、昔気質のカッコ良さがある。義理と人情を重んじながらも、実に明るい。悩みに対してもどうにもならないことなら「まぁいっか」と切り替える。そうした肩の力の抜けっぷりは、マンガ版"寅さん"とも言えそうなほど、脱力した漢気(おとこぎ)にあふれている。「こういう男になりたい」と思わせる素敵なキャラクターが主人公に据えられているんです。

あっちでは、なぜ50位にも入っていないのか?

宇宙兄弟(8) (モーニング KC)
『宇宙兄弟(8) (モーニング KC)』
小山 宙哉
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不思議だったのが12月に発売された「このマンガがすごい! 2010」に本作品が入っていないこと。昨年版では2位だったのに、50位以内にも入っていないとはどういうことでしょうか。

聞くところでは「このマンガがすごい」は著名人や書店員、大学漫研、雑誌編集部、編集者など、毎回数十名の「マンガ読み」を選出し、ランキング形式でアンケートを取るという方法で集計されているようです。こうしたアンケート形式のランキングでは「ベタな作品は挙げたくない」という選者の意向が働きがちで、前年に上位に入賞したマンガが下位に沈むこともありますが、それにしては昨年「オトコ編」の1位となった「聖☆おにいさん」も7位に入賞している。

もちろんマンガは読者1人1人の好みに左右されるものですが、『宇宙兄弟』はどう考えても50位に入らないようなマンガではありません。とはいえ、「マンガ大賞2010」で1次選考を通過し、最終ノミネート作品に残ったときにはホッと胸をなで下ろしましたが(笑)。コミックス派の僕にとっては続きが気になり、思わず『週刊モーニング』を買ってしまおうかという欲望に駆られてしまう。『宇宙兄弟』はそれほどの完成度にして魅力あふれる作品なのです。

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