第9回「マンガ大賞2010 極私的ノミネート作品」

Page 4 壮大すぎるスケール感――『海獣の子供』

壮大すぎるスケール感――『海獣の子供』

海獣の子供 1 (IKKI COMIX)
『海獣の子供 1 (IKKI COMIX)』
五十嵐 大介
小学館
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さてメジャー誌と言えるかどうか微妙ですが、ニッポン放送の吉田アナも「いまあのマンガ誌がアツい!」と大注目している『月刊IKKI』というマンガ誌があります。「コミックは未だ黎明期である」をキャッチコピーに作家やマンガの新しい可能性を追求しているユニークなマンガ誌ですが、その『IKKI』にとてつもなくスケールの大きな作品があります。『海獣の子供』(五十嵐大介)という2006年から連載されている作品で、既に数々の賞を受賞している名作と言ってもいい作品かもしれません。

この作品は一言で言うのは非常に難しいタイプの作品で、ある種のとっつきにくさも持ち合わせています。敢えてカテゴライズするならSFになるのかもしれませんが、単なるSF作品と言うにはあまりにもテーマが壮大です。アニメで言うと『新世紀エヴァンゲリオン』を「ロボットバトルモノ」と例えるのに近い違和感があるのです。

主人公は琉花という学校に居場所のない中学生の少女。その琉花が東京で海の生物と交感する不思議な能力を持った少年と出会う。そしてその頃、海には隕石が落ち、世界中の海や水族館から魚が消えていた......。というような導入ですが、これだけではまったく何の物語かわかりませんよね。僕にもわかりません(笑)。

本質をえぐる名ゼリフの宝庫

海獣の子供 4 (IKKI COMIX)
『海獣の子供 4 (IKKI COMIX)』
五十嵐 大介
小学館
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しかしストーリーを追っていくとネタバレになってしまうので、今回はこの作品からピックアップしたセリフを紹介していきましょう。そう。この作品は『ザ・ワールド・イズ・マイン(TWIM)』(新井英樹)にも通じる名ゼリフの宝庫作でもあるのです。例えば......。

「家族の代わりやら良識やら。あんたは余計なことに回しすぎなんだ。問題に正面から当たらないからいつまでたっても進歩がないんだよ。」(3巻)

「人間には理解できないそこにある事にすら気づく事すらできない秩序や価値や知があるかもしれないんだから。どのような道を経て、今に至るかは違っても。今わたしたちのまわりにある全ての存在は、世界が生まれたときからきっかり同じだけの時間を経てここにある。みんな対等だと思うけどね。自分だけが頂上にいると思うのはマチガイだ。」(4巻)

「言語は性能の悪い受像機みたいなもので、世界の姿を粗すぎたり ゆがめたり ボヤかして 見えにくくしてしまう。"言語で考える"って事は決められた型に無理に押し込めて、はみ出した部分は捨ててしまうという事なんだ。」(4巻)

どうですか! ますますわからなくなったでしょう(笑)。しかし『エヴァンゲリオン』や『TWIM』、『寄生獣』、『七夕の国』が好きな人なら、この作品は一度読んでみてほしい。いや、読んでみるべき! と声を大にして言わせて頂きます。

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