第9回「マンガ大賞2010 極私的ノミネート作品」

Page 5 嫌悪感という武器で刺す『モンキーピープル』

嫌悪感という武器で刺す『モンキーピープル』

モンキーピープル 1 (ヤングジャンプコミックス)
『モンキーピープル 1 (ヤングジャンプコミックス)』
釋 英勝
集英社
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鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)
『鈴木先生 (1) (ACTION COMICS)』
武富 健治
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さて最後の1作品ですが『ビジネスジャンプ』で連載されている『モンキーピープル』(釋英勝)を挙げておきましょう。以前、紹介した『ハッピーピープル』を描いた作者による"ホラー"作品で、作中に漂う"気味の悪さ"は前作と同じ種類のものです。

その導入は「新薬開発を試みる日本のある製薬会社。そんな時、実験用にと南の島から新種のコオロギが送られてきた。それは、人類にとって重要な意味を持つ、驚くべきコオロギだった...」というものです。ネタバレがいやな人はここまでで読むのをやめて、目をつぶって画面の一番下までスクロールしてください。今回のテーマでのオチまでたどり着くことができますから(笑)。

設定はその「新種のコオロギ」には人間にとって諸刃の剣となる成分が含まれるというもの。特効薬の可能性もあれば、人間に致命的なダメージを与える可能性も秘めているコオロギを巡って、様々な人間の思惑が交差してストーリーは展開していきます。

「この人の描く人物は生理的に受けつけられない」という読者もいると思いますが、ある種の不気味さはこの人の持ち味でもある。「気持ち悪い」「不気味」と思うからこそ、人に何かを訴えかけることができるのです。これはマンガでも音楽でも映画でも同じことですが、クリエイティブ作品で「好き」とも「嫌い」とも思わせられない作品が何かを伝えるのは難しい。

そう考えると嫌悪感すら覚えさせるこの人の画風は、それだけで武器とも言える。しかもこの作品、「構想20年」という超大作になる予定だそうです。現在までのところ、物語はその期待に違わぬほど暗く、重々しく、薄気味悪く進んでいます。映画で言うなら、スティーブン・キングとアルフレッド・ヒッチコック、両方の作品が好きな人ならハマるタイプの作品と言えるでしょう。

差換御免! 大賞は3月発表!

かぶく者(1) (モーニング KC)
『かぶく者(1) (モーニング KC)』
たなか 亜希夫
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『モンキーピープル』はどう考えても「大賞」を取るタイプのマンガではありません。多くの審査委員が投票して決定する以上、嫌悪されやすいマンガはどうしても票が伸びにくい。だからこそ、この作品を挙げておきたいんです。

しかし今回、候補作を考えるのは、本当に大変でした。『宇宙兄弟』や『バクマン』のような王道作品で選びたいマンガは他にもありましたし、かといって、過去にあまりないテイストを打ち出している『ファンタジウム』や壮大なスケールの『海獣の子供』を落とすわけにはいかない。そして僕以外に誰もノミネートしないと思われる『モンキーピープル』......。他にも『鈴木先生』(武富健治)、『3月のライオン』(羽海野チカ)、『かぶく者』(作・デビッド・宮原 画・たなか亜希夫)なども挙げたかったし、8巻という縛りがなければどれだけ裾野が広がってしまったことか。そして選びきったいま思うことは......。

「やっぱり、アレにしようかな」です(笑)。差換御免! それほどまでに、マンガの魅力は奥深い。大賞が発表されるのは3月です。刮目して待て!

HAKUEI的「マンガ大賞2010 極私的ノミネート作品」とは
一、まさに「いまこの瞬間、面白いマンガ」である
一、選考基準通り「8巻以内」で2009年に発行された作品である
一、友人に無理矢理送りつけてでも、語り合いたい作品である
番外、この原稿はノミネート前日のものなので、実際には挙げていない可能性のある作品である

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