第10回「後世に残したい、世界に伝えたいあの作品」

Page 2 『ジョジョの奇妙な冒険』の発明その1~「能力のキャラ化」

『ジョジョの奇妙な冒険』の発明その1~「能力のキャラ化」

ジョジョの奇妙な冒険 (1) (ジャンプ・コミックス)
『ジョジョの奇妙な冒険 (1) (ジャンプ・コミックス)』
荒木 飛呂彦
集英社
421円(税込)
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うしろの百太郎 (KCデラックス)
『うしろの百太郎 (KCデラックス)』
つのだ じろう
講談社
1,944円(税込)
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さていきなり重いテーマから入ったので、次はエンターテインメント性の高い作品に触れておきましょう。『ジョジョの奇妙な冒険』(荒木飛呂彦)。同タイトルでのコミックスが63巻まで発刊され、関連シリーズも含めると100巻を超える大作で、既に海外にも知られた作品です。作品性の高い「超能力バトル大河マンガ」とでも言えばいいでしょうか。

マンガ読みにも熱烈なファンの多いこの作品は、ファンを惹きつけるいくつかの要素が複合的に絡み合って成立しています。

まずこの作品が何より画期的だったのが、さまざまな超能力を「スタンド」という人形のようなキャラクターで擬人化・可視化させたこと。『ジョジョ~』以前のマンガでは、超能力はその能力が引き起こす事象や結果を中心に描かれてきました。例えば、超能力マンガの代表的作品『サイボーグ009』(石ノ森章太郎)では、身体の動きを100倍以上にスピードアップさせる「加速装置」など、9人のサイボーグ戦士の能力自体に焦点が当てられていました。しかし『ジョジョ~』は超能力そのものをキャラクター化し、背後霊のように可視化することで能力をクッキリと描き出したのです。

背後霊と言えば、1970年代には『うしろの百太郎』(つのだじろう)という心霊マンガでも、主人公の背後霊の百太郎が可視化されていましたが、百太郎の場合「背後霊が、いかにも霊らしい能力を持っている」という物語です。作者が設定した「能力」を「キャラ化/可視化」したのは、やはり『ジョジョ~』以降と言って差し支えないでしょう。

『ジョジョの奇妙な冒険』の発明その2~「能力のロジック化」

巨人の星(1) (講談社漫画文庫)
『巨人の星(1) (講談社漫画文庫)』
川崎 のぼる
講談社
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リングにかけろ (1) (集英社文庫―コミック版)
『リングにかけろ (1) (集英社文庫―コミック版)』
車田 正美
集英社
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『ジョジョ~』がマンガ界にもたらした発明はそれだけではありません。能力バトルにおいて明確なロジックが勝敗を決めるよういなったのも『ジョジョ~』以降でしょう。単に精神力ではなく、戦う相手との能力の相性や優劣が、ロジカルに勝敗を決めていく。

過去のマンガにおいても、人間離れした能力はさまざまなやり方で表現されてきました。そしてそのほとんどのマンガに(例え荒唐無稽だとしても)、ロジックは込められていました。そうでなければ説得力を生むことができなかったのです。

例えば名作『巨人の星』で構えた相手バッターのバットを狙う大リーグボール1号は「相手の心理を読む」「球質の軽さを利用する」。同2号に至っては「地面から巻き起こる土煙でボールを見えなくする」。まるで忍者です。しかも、その後ボールの回転により、ボールが浮き上がるというオマケまでついていました。重力無視もいいところです。

ほぼ超能力とも言えるパンチ力のインフレマンガ、『リングにかけろ』(車田正美)は、現実離れした描写と力任せのストーリー展開が、かえって説得力につながっていました。パンチを一閃すればリングが割け、食らった相手は日本武道館の天井近くまで吹き飛ばされる――。しかしライバルもとんでもないパンチを放つので、キャラ同士の力関係としては破たんすることなく、奇跡的なバランスが保たれていました。

マンガ史をひもとくと『ジョジョ~』の連載が始まった1980年代後半から「無敵の必殺技」は、非常に少なくなります。"必殺技マンガ"の宝庫とも言える週刊少年ジャンプでも、必殺技作品の連載がスタートした年を見ると1981年『キャプテン翼』(高橋よしひろ)、1984年『ドラゴンボール』(鳥山明)、1985年『聖闘士星矢』(車田正美)と『ジョジョ~』以前の作品が目立ちます。

1987年に連載がスタートした『ジョジョ~』以降のジャンプで"必殺技マンガ"の色を継承した作品は、冨樫義博作品の『幽☆遊☆白書』や『HUNTER×HUNTER』、それに『ONE PIECE』(尾田栄一郎)、『BLEACH』(久保帯人)、『トリコ』(島袋光年)など。富樫作品のようにロジックを重視するか、ファンタジーの世界に羽ばたいて行くか2パターンにわかれていきます。

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