第10回「後世に残したい、世界に伝えたいあの作品」
Page 3 マンガ界の大河ドラマ作品の凄味
マンガ界の大河ドラマ作品の凄味
- 『こちら葛飾区亀有公園前派出所 1 (ジャンプコミックス)』
- 秋本 治
- 集英社
- 421円(税込)
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『ジョジョ~』を語るとき必ず挙げられるのが、作者も作品のテーマとして挙げている「人間讃歌」というキーワードでしょう。強大な敵に対し、仲間と協力し合いながら、勝利を目指す......。人間の素晴らしさをうたおうという「人間讃歌」は、まさに少年マンガの王道そのものの構図と言えます。
しかもこのマンガがすごいのは、時間の経過が描かれていること。「当たり前じゃないか」と思われるかもしれませんが、マンガとは時間を超越するもの。今年連載開始35年となる『こちら亀有公園前派出所』のように時間の経過など無視するのが、マンガ作品としては常道です。
しかし『ジョジョ~』は、親・子・孫・子孫などジョースター家の一族が、数代・数十年に渡って強大な敵・ディオと闘うという物語。しかも敵役のディオのみが年を取らない設定になっています。たった一人の非道な男によって、ことごとくこの世を去っていくジョースター一族。その度にディオは、相手のチカラを吸い取るかのごとく強大になっていく。ともに凡人には持ち得ない、スタンドという特殊能力ではあっても、時間を支配することがいかに絶対的なことか――。それは過去、為政者たちが求めながらも、決して手に入れることのできなかった幻想である"不老不死"そのもの。
歴史絵巻のような緻密で壮大な物語
- 『ジョジョの奇妙な冒険(第1・2部) ファントムブラッド・戦闘潮流 文庫版 コミック 1-7巻セット (化粧ケース入り) (集英社文庫―コミック版)』
- 荒木 飛呂彦
- 集英社
- 4,399円(税込)
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昨年話題になった『龍馬伝』が「原作なしの大河ドラマ」として話題になったように、現在では大河ドラマでも、原作つき作品が多くを占めるのは当たり前のこととなっています。荒木飛呂彦という作家は独力でストーリーを描き、キャラクターに命をふきこみ(しかもスタンドという超能力の種類とカタチまで!)、さらには緻密で壮大な物語を作り上げていく。
そう。壮大なこの作品は、まさにマンガ界の大河ドラマと言える存在です。現在話は第8部の「JoJolion」編まで展開していますが、第1部から8部までそれぞれの物語という点が描かれているのに、いつしかその点は線となり、壮大なマンガ歴史絵巻として展開するようになる。「ディオVSジョースター一族の闘い」の戦いは、各パートが終わる度にまったく関係ない物語が一からスタートするかのように見せかけて、すべての物語がつながっているという、壮大な歴史絵巻になっているのです。
こうした設定は作り手として非常に難度が高い。ちょっとしたセリフのミスが命取りになることもあります。実際、設定に関わる細かいセリフ回しを間違えて、読者に謝罪したこともあります。しかしそれはあくまでも挑戦した結果。荒木飛呂彦という作家は常に作品性という高い山に立ち向かっている。そうした挑戦する姿勢も含めて、もっと広くもっと深く知ってほしい作品です。既に海外で認知されていたり、世代を超えたファンがいるのは承知の上! まだ読んだことのない方は、ぜひ1巻から順に読んでみてください。必ずどこかにツボにハマるシチュエーションがあるはずです。