中川淳一郎さん

編集者・プランナーとして活躍する中川淳一郎さん。某ニュースサイトのPV激増に貢献した彼は、大反響を呼んでいる『ウェブはバカと暇人のもの』の著者でもあり、2009年8月からは自由大学にて「編集学校」の講師もつとめる予定。現在最先端を疾走するネットニュース編集者が選んだ一冊とは――。

情報は“編集”によって、初めて価値が生まれる。

ネットの流行はテレビから生まれる

ニュースの編集長を務める傍ら、執筆・編集業務の他、ネットでの情報に関するコンサルティングも手がけている中川さん。毎朝6時半に起き、『ズームインSUPER』(日本テレビ系)や『めざましテレビ』(フジテレビ系)をはじめとする情報番組をザッピングしながら、9時まで見続ける。その後はひたすら、ネットサーフィン。日々ネット漬けの生活を送っているという。

「ネットで流行るのは結局“テレビネタ"なんですよ。テレビで取り上げられている話題やキーワードに合わせて記事をアップすれば、確実にPVは上がる。逆に、新聞や雑誌はほとんど影響しません。言ってみれば、1日中テレビとネットを見続けているのが僕の仕事(笑)。バカで暇人であることにかけては、誰にも負けない自信があります」

ネットニュースの編集長を待っていた、クレームの嵐

2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)
『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか? (扶桑社新書)』
西村 博之
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だが、ここまでの道のりは決して順風満帆だったわけではない。某ネットニュースの編集長になって最初の1ヶ月は、連日コメント欄が大炎上。クレーム対応に追われる日々だった。

「『ウェブ進化論』や『ブログ論壇の誕生』を読んだ時は、Web2.0ってすげぇ!と本気で感動したんですよ。でも、実際にサイトを運営する側になってみたら、そこにあったのは“集合知"どころか“集合愚"。そもそも、雑誌とネットでは、読者にウケるツボがまったく違うということもわかっていなかったおかげで次から次へと読者の地雷を踏みまくるわけです。ニュースをアップするたびにコメント欄が、罵倒やクレームのコメントで埋め尽くされる。1日あたりのPV数はせいぜい2万程度なのに、いったい、これは何なんだと唖然としました。その後、『2ちゃんねるはなぜ潰れないのか?』や『情報革命バブルの崩壊』を読み、同じネット関連でも著者がコンサルタントや研究者、ITジャーナリストなのか、“運営当事者"なのかでこうも内容が違うのかと驚きました。同時に、これまでずっと抱いていた違和感の正体も見えてきたんです」

引き受けたからには結果を出す。それが男だ。

博報堂で企業のPR業務に携わり、その後無職生活を経て、フリーランスのライター・編集者に転身。雑誌編集者をしていた大学時代の友人から声をかけられたことがきっかけだった。

「当時、『ちょっと畑を耕すのを手伝ってくれない?』と言われていたら、今頃は農業をやっていたかもしれません。ネットニュースもそう。最初からネット好きだったわけでも、特別詳しかったわけでもないんですよ。あるとき『ネットニュースの編集者をやってみない?』と声をかけてもらい、引き受けたからには結果を出そうと、必死になっているうちに“専門家"になってしまった(笑)」

活字を読む面白さを教えてくれた一冊

かつをぶしの時代なのだ (集英社文庫)
『かつをぶしの時代なのだ (集英社文庫)』
椎名 誠
集英社
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そんな中川さんの座右の一冊は、椎名誠さんの『かつをぶしの時代なのだ』。中学から高校にかけて約4年9ヶ月過ごしたアメリカで、何度となく繰り返し読んだ思い出深い本だという。

「僕が当時、住んでいたのは本屋に行っても日本語の本なんて一冊も売っていないような 田舎町でした。それまで読書といえばマンガ。なんといっても当時の愛読書は『ブラックエンジェルズ』でしたから。でも、日本から持って行ったマンガも読み尽くしてしまい、とにかく何でもいいから日本語が読みたい! という時に、たまたま家にあったのが椎名さんのエッセイ。多分、両親のどちらかがファンだったんでしょうね。この本を読んで初めて、活字を読む面白さを知ったんです」

じつは中川さんの著書『ネットはバカと暇人のもの』には“シーナ節"が潜んでいる。

「椎名誠さんと東海林さだおさん、吉田豪さんを徹底的に研究して、ミックスしたのが僕の文体なんです。ふざけたり、茶化したりするけれど、決して誰かを見下したり、バカにしたりしない。だからこそ、読んでいて気持ちよく笑えるし、共感できるんだと思うんです。僕が今、もっとも読みたいのは椎名さんのエッセイ。それも今の椎名さんが、あの当時の文体で『Web2.0? 何を言っているのだ、エッ!』とインターネットについて語ってくれたら……と、想像するだけでゾクゾクします」

ショージ君は、元祖2ちゃんねらーである

ショージ君の青春記 (文春文庫 177-5)
『ショージ君の青春記 (文春文庫 177-5)』
東海林 さだお
文藝春秋
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東海林さだおさんの代表作品の一つ『ショージ君』にハマッたのは大学時代。「モテない男がますます報われない姿が、他人事とは思えなかった」と中川さんは笑う。

「共学とは名ばかりで、大学の8割以上が男。女子はビジュアルと関係なく誰でもモテるけど、男はヒサン。絶望的なぐらいにモテないわけです。そのモテない男のひがみや嫉妬を笑いに昇華したのが『ショージ君』の世界。それは現在の2ちゃんねるの笑いに通じるものがある。ショージ君はいわば、“元祖2ちゃんねらー"なんですよ」

情報の価値。それは“編集"から生まれる

インターネットのおかげで、誰でも簡単に大量の情報を手に入れられるようになった。だが、情報は、ただかき集めるだけでは役に立たない。“編集"――情報のカケラを独自の視座で再構成することによって初めて価値が生まれるという。

「編集と聞くと、出版社をイメージされる方が多いと思うんですが、じつは編集はあらゆる仕事と切っても切れない存在であり、普遍的な技術です。例えば、得意先で小耳にはさんだ雑談と、新聞で見たニュースをうまくからめたセールストークをするというのも編集の一つ。無数に飛び交う情報をただ“消費"する人と、“換金"できる人との分かれ道は、編集能力にあるといっても過言ではありません。さらに、酒が強ければ怖いものなしですね(笑)」

プロフィール

編集者・PRプランナー。一橋大学商学部卒業。博報堂CC局を経て2001年に退社し、雑誌のライターになり、その後「テレビブロス」編集者になる。2006年からインターネット上のニュースサイトの編集者になり現在は編集・執筆業務の他、ネットでの情報発信に関するコンサルティング業務、 プランニング業務も行っている。2009年から自由大学にて「編集学校」講師を勤める予定。講師としてR25創刊編集者 藤井大輔氏、BRUTUS編集長西田善太氏など。
http://www.freedom-univ.com/lecture/detail75.html

著作紹介

ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)
『ウェブはバカと暇人のもの (光文社新書)』
中川淳一郎
光文社
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『人生ゲーム―ある朝ぼくの会社がなくなった』
中川 淳一郎
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