加藤直徳さん
トラベルカルチャー誌『TRANSIT(トランジット)』の編集長である加藤直徳さん。アフガニスタン訪問をきっかけに、同誌の前身となる『NEUTRAL』を創刊。現在に至るまで独特のスタイルで雑誌づくりに取り組む。気鋭のエディターを育んだ一冊とは――。
そこにある“しつこさ”に惹かれる
クビ寸前!? ピンチがチャンスに変わった瞬間
- 『TRANSIT(トランジット)9号~永久保存 美しきモロッコという迷宮~ (講談社 Mook)』
- 講談社
- 1,800円(税込)
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『TRANSIT(トランジット)』は、贅沢な雑誌だ。現地で撮り下ろした写真がふんだんに使われ、椎名誠や細野晴臣、石川直樹といったそうそうたる執筆陣が名前を連ねる。加藤直徳さんは同誌の創刊編集長であり、現在もチーフエディターとして独自路線を歩み続けている。
「高校生の頃から『雑誌を作りたい』という思いがずっとありました。でも、出版社に就職したからといって、“作りたいもの”を作らせてもらえるわけではない。僕自身が初めて雑誌づくりに携わったのは、リストラ話がきっかけでした」
配属部署では“使えないヤツ”と認定されていたと笑う、加藤さん。入社から3年ほど経った頃、直属の上司から「そろそろ辞めてくれないか」と言われたという。しかし、同時に「辞める前に一冊、作りたい雑誌を作れば?」と、チャンスも巡ってきた。
「当時、僕が勤めていた出版社では月に1回企画会議があり、社員でもアルバイトでも誰でも企画を出せたんです。僕もせっせと『こういう雑誌を作りたい』とプランを出し続けたけれど、一冊も通らなかった。でも、それを覚えていてくれた人がいたんです」
“アフガニスタン”という転機
- 『1000チェア 25周年』
- シャーロット&ピーター・フィール
- タッシェン・ジャパン
- 2,052円(税込)
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加藤さんが最初に手がけたのはインテリア誌。国内外のインテリアにまつわる書籍や雑誌を集め、貪り読んだ。『1000チェア』もそんな一冊だった。
「椅子ばかりを集めた本で、歴史やウンチクがびっしり書かれている。図鑑のような本です。ドイツのタッセン社の本はしつこさが面白い。標識だけを集めたものや、レコードジャケットだけというシリーズもあります。社会人になってからは、こうした参考資料としての書籍が占める割合が自然と増えましたね」
加藤さんに大きな転機が訪れたのは2003年。アフガニスタン旅行をきっかけに、旅×カルチャーを軸とした雑誌を創刊する。
「あのとき、アフガニスタンに行ってなかったら、旅雑誌を作ろうとは思っていなかったかもしれません。偶然、知り合いのカメラマンがNPOの活動でアフガニスタンの子どもたちにオモチャを配りに行くと聞き、一緒に連れて行ってもらった。現地で感じた価値観の違いのようなものが強烈で、そこにあるギャップを埋められるような雑誌を作りたいと思った。1年も経つと古くなってしまう“消え物”としての雑誌ではなく、最低でも5年は読めるような雑誌と書籍の間を狙いたいと」
“マンガ禁止令”の唯一の例外は手塚治虫
- 『火の鳥(1) (手塚治虫漫画全集)』
- 手塚 治虫
- 講談社
- 577円(税込)
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小説からノンフィクション、写真集にマンガと、加藤さんが手に取る本のジャンルは幅広い。しかも、「どんなにつまらなくても最後まで読む」という。
「つまらないなら、途中で読むのをやめればいいのにと自分でも思うんですよ。でも、やめられない。もったいないような気がしてしまうんですね。一度に10冊くらいバーッと購入して、積んでおく。それを一冊一冊に読んでいくんです。子ども時代に両親が買いそろえてくれた世界文学全集や日本文学全集などを順番に読んでいったときの記憶がどこかに残っているのかも(笑)」
「家族全員が本好き」という環境の中で育ったという加藤さん。夕食時に家族で感想をディスカッションしたりもしたそう。子どもの頃、マンガは基本NG。唯一の例外が手塚治虫だったとか。
「恐らく、『描き出されているテーマが深いから』といったような理由でOKだったんでしょうね。おかげで、『火の鳥』はだいぶ早いタイミングで読んでます。まずはマンガで読み、その後に小説版を読んで。高校に入るころから書籍よりも雑誌にシフトしたのは、できるだけ純文学から離れたいという気持ちだったのかも。雑誌の雑多さに憧れていました」
愛読書は夏目漱石の「こころ」
- 『こころ (新潮文庫)』
- 夏目 漱石
- 新潮社
- 400円(税込)
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そんな加藤さんの愛読書は、夏目漱石の『こころ』だ。幾度となく、繰り返し読んでいるという。
「ここまでの名作になると、何度読んでも必ず読むたびに新しい発見があります。赤瀬川源平さんや都築恭一さんも好き。都築さんの『天国は水割りの味がする』も凄く良かった。面倒くさいから誰もやらないようなことを丹念に拾い上げる。すごく興味があることが伝わってくる。そこにある“しつこさ”に惹かれる。僕自身も、そういう雑誌を作りたい。編集者が黒子に徹していて、前に出すぎない。丹念に編まれたような本。スタッフはみんな嫌がってますけどね。しつこすぎて(笑)」
紀伊國屋書店とビックカメラの共通点
加藤さんはプライベートで読む本は、ほぼリアル書店で購入する。
「仕事用の書籍を買うにはネット通販が便利だけれど、自分用となるとやっぱり本屋に足を運んで、手で質感を確かめた上で買いたい。狭い家なので本棚スペースはどうしても限られていますから僕なりに厳選します」
お気に入りの書店は、新宿にある紀伊国屋書店本店だ。まずは雑誌をチェックし、新書コーナーに立ち寄り、テーマ別の棚をのぞき……と学術書以外は一通り足を運ぶという。
「紀伊國屋書店の素晴らしいところは、おしゃれではないところ(笑)。“おしゃれ書店”はセレクトされすぎていて少し退屈なんですよ。 その点、紀伊國屋書店なら、堅い内容の本から、くだらない下世話なものまですべてある。そこにあるワクワク感は、ビックカメラにも通じるものがあります」
オトコなら手元に置いておきたい、背筋が伸びる一冊
- 『生きるという航海 (幻冬舎文庫)』
- 石原 慎太郎
- 幻冬舎
- 535円(税込)
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大学時代には「池澤夏樹さんの“おすすめ本”ばかり読んでいた時期がある」という、加藤さん。雑誌などの書評をヒントに本を選ぶ経験を積み重ねることで、自分自身のセレクト基準に磨きをかけてきた。そんな加藤さんが勧める、オトコの課題図書とは――。
「石原慎太郎さんの『生きるという航海』です。これまでに手がけた作品の中からいろいろなフレーズを抜粋した、名言集のような本。弱っているときは強すぎて勘弁ですが(笑)、オトコなら手元に置いておきたい一冊です」
加藤 直徳(かとう なおのり)
1975年東京生まれ。編集者。白夜書房入社後、アフガニスタン訪問をきっかけに旅雑誌『NEUTRAL』を2004年に創刊。
2008年にトラベルカルチャー誌『TRANSIT』と誌名を変更し、講談社より発行。『TRANSIT TOKYO ごはん』 『蒼井優 写真集:ポルトガール』など、数多くの書籍も手掛けている。
- 『TRANSIT(トランジット)9号~永久保存 美しきモロッコという迷宮~ (講談社 Mook)』
- 講談社
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- 『TRANSIT 8号 やっぱりタイが好き! (講談社MOOK)』
- 講談社
- 1,599円(税込)
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- 『TRANSIT TOKYO ごはん (講談社 Mook) (講談社 Mook)』
- 梶原 由景
- 講談社
- 1,440円(税込)
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- 『蒼井優ポストカード写真集 ポルトガール』
- 蒼井 優
- 講談社
- 3,024円(税込)
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