大森南朋さん
角川春樹監督が「繊細さと男の色気を併せ持つ、新しいタイプの役者」と絶賛する、俳優の大森南朋さん。数々の映画やドラマに出演し、次世代の日本映画界を支える名俳優として、注目を集める。同性をも魅了する"存在感"を持つオトコが選んだ一冊とは――。
絶望的な状況の中でも、パンクに生きる。それがオトコだ。
音楽好きが高じて、ミュージシャンの自伝にハマった10代
- 『トム・ウェイツ 酔いどれ天使の唄』
- パトリック ハンフリーズ
- 大栄出版
- 1,888円(税込)
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クセのあるキャラクターから、アットホームな人柄まで役ごとにガラリと違う顔を見せる。
そんな大森南朋さんにとっての“かっこいいオトコ”像。それは「破天荒だけれど、行きすぎない。堅実なのにツッパっているようなタイプ(笑)」だという。
「19歳の頃、音楽が好きだったこともあって海外ミュージシャンの自伝にハマりました。人生の岐路に立たされる年齢にさしかかっていたこともあって、他の人がどんな風に生きてきたのかにすごく興味があったんです。とくに、印象に残っているのはトム・ウェイツ。ミュージシャンは早逝する人が多いけれど、彼は長生きをしている。しかも、“酔いどれ天使”という異名を持つほどの酒好きなのに、年をとってからは酒もタバコもやめている。一見、かっこ悪いけれど、そのアンバランスさは、僕にとってはむしろ、かっこいいもののように思えたんです」
好きな音楽を聴きながら、そのアーティストの自伝を読む。すると、さらに深く音楽を愉しむことができるという。
「自伝を通して歩んできた人生を知ると、思い入れが深くなり、楽曲についてもより詳しく知ることができる。すると、同じ曲を聴いていても感じるものが変わってくるんです。音楽好きな友人が多かったので、周囲もみんな読んでいました。ニルヴァーナの自伝『病んだ魂』も懐かしい一冊ですね」
自伝には、“時代”を知る文献としての魅力もある
- 『バーボン・ストリート・ブルース (ちくま文庫)』
- 高田 渡
- 筑摩書房
- 778円(税込)
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ある時代を駆け抜けた人々の言葉がリアルに描かれている。それが、自伝の魅力だという。
「プライベートで読む本は、ノンフィクションが大半を占めています。その人たち自身の言葉をリアルに見たり、聞いたりしたいという思いがあるんだと思います。また、当時の時代背景や風俗を知る文献としてとらえているところもありますね。映像作品の場合はノンフィクションばかりを観ているわけではありませんけど」
1960年代から90年代にかけて活躍したフォークシンガー・高田渡氏の自伝『バーボン・ストリート・ブルース』もお気に入りの一冊だ。
「以前、吉祥寺の飲み屋でやたらとギターの上手なオヤジにからまれたことがあるんです。後から振り返ってみると、そのオヤジが高田渡さんだった。その後、だいぶ時間が経って、そんなことがあったことすら、すっかり忘れた頃になって買ったのが、この本です。『バーボン・ストリート・ブルース』には貧しい家庭に生まれ、紆余曲折を経てフォークシンガーとして生きていく一人の男の人生がつづられている。新宿や吉祥寺という、この20年間で激変した街の遍歴を知ることができるという面白さもあります」
新作映画『笑う警官』にまつわる、不思議な縁
大作からインディーズ作品まで、幅広く出演している大森さん。「作品選びの基準は、もしかしたら、タイミングなのかもしれない」という。来年秋に公開予定の主演映画『笑う警官』にも、不思議な縁があった。
「まったくの偶然なんですが、ある映画監督の方に勧められて『北海道警察の冷たい夏』を読んだ直後に、出演のオファーをいただいたんですよ。この本は北海道警察の不祥事を追ったノンフィクション。そして映画『笑う警官』の原作もまさに、北海道警察の組織ぐるみの汚職事件がヒントになっている小説です。映画出演の打診があった時点では、原作はまだ読んでいませんでした。でも、これはもう運命だなと(笑)」
「宇宙」、そして「幕末時代」というオトコ心をゆさぶるキーワード
- 『MOONLIGHT MILE 1 (ビッグコミックス)』
- 太田垣 康男
- 小学館
- 545円(税込)
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本はノンフィクションが好きだという大森さんだが、じつはマンガ好きという顔も持つ。
最近、注目しているマンガはビッグコミックスペリオールで連載中の『ムーンライトマイル』。宇宙開発を題材とし、月面基地の覇権をめぐる各国の対立、月開発に挑む人々の姿を描いた作品だ。
「『ムーンライトマイル』はフィクションだけれど、そこに起こる事件はどれも実際に起こってもおかしくないリアルさに満ちているんです。モーニングで連載中の『宇宙兄弟』も好きだし、幕末時代を題材にした『SHIDO―士道』(週刊ヤングジャンプで連載中)も新刊が出るのが待ち遠しい。宇宙にしろ、幕末時代にしろ、どこか自由を感じさせる何かがあるという点が共通している。そこに男のロマンを感じ、惹きつけられるのかもしれません」
オトコにとっての読書。それは「ただ、横にあるもの」である。
- 『くそったれ!少年時代 (河出文庫)』
- チャールズ ブコウスキー
- 河出書房新社
- 1,296円(税込)
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オトコにとって、読書はどのような意味を持つのだろうか。大森さんから返ってきたのは「ただ、横にあるもの」というシンプルな答えだ。
「僕にとって読書は、日常生活の中に当たり前のようにあるものです。移動中やロケの待ち時間を利用して、読み残してあった本を少しずつ読む。風呂に入りながら、本を読むこともあります。逆に、海外ロケなど、“いかにも読書向き”なシチュエーションでは、案外読まない。ついつい張り切って大量に本を買い込んではみるものの、結局重たい荷物を持って往復しただけで終わることが少なくないんです(笑)」
そんな大森さんがイチオシの一冊は、世界的にカルト的人気を誇る作家チャールズ・ブコウスキーの『くそったれ! 少年時代』だ。ブコウスキーは俳優ショーン・ペンやU2のボノなど、数多くのアーティストに影響を与えたことで知られる。
「『くそったれ! 少年時代』はブコウスキーの最高傑作と言われる、自伝小説です。少年時代のブコウスキーはコンプレックスの塊のような子供で、友達は一人もいない。家は貧乏で、父親はしょっちゅう暴力をふるう。そんな悲惨な境遇の中で、ブコウスキー少年はめげるどころか、自由で好き勝手に生きている。そこには、男なら誰しも憧れる“パンクな生き様”があります。人生には辛いことがたくさんある。でも、クヨクヨ悩み続けるより、男なら破天荒に生きろ! そう発破をかけてくれる本です」
1972年生まれ。俳優。
初主演作は『殺し屋1』(2001年/三池崇史監督)。主演TVドラマ『ハゲタカ』(2007年)では「第33回放送文化基金賞 演技者賞」を受賞。来年『フィッシュストーリー』(2009年3月/中村義洋監督)の全国公開が控えている。
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