石川直樹さん
世界を奔放に渡り歩く旅人であり、気鋭の若手写真家でもある石川直樹さん。10代から現在に至るまで「旅をしながら、表現する」というライフスタイルを貫いてきた。世間の枠組にも、既成概念にもとらわれない。"自由"を体現するオトコが選んだ一冊とは――。
旅をしながら、表現する
旅先に持っていくのは、目的地とまったく関係がない本
- 『ウィ・ラ・モラ―オオカミ犬ウルフィーとの旅路』
- 田中 千恵
- 偕成社
- 1,944円(税込)
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北極〜南極間を人力で踏破し、世界七大陸最高峰の世界最年少(当時)登頂を達成。高校生のときにインド一人旅に出かけて以来、世界中の大陸を旅してきた石川直樹さん。「旅に出るときは必ず本を持っていく」という。
「山に行くなら海が舞台の小説、海に行くなら山がテーマのノンフィクションといったように、目的地とまったく関係のない本を選ぶことが多いですね。旅先では、そこでの環境にどっぷり浸かってしまいがち。あえて違う種類のものを持っていったほうが、気分転換をしやすくなるんです」
石川さんは旅行記やノンフィクションはもちろん、小説、雑誌とジャンルを問わず、何でも読む“雑読"派だという。
「神保町をウロウロしながら古本を物色することもあれば、誰かに勧められて読むパターンも多いです。最近面白かったのは『ウィ・ラ・モラ』。これは、ぼくの友人でもある田中千恵さんという女性がたった一人で、カナダの自然を旅したときのことを書いた紀行です。旅で出会ったオオカミ犬に惚れ込み、日本に連れて帰るまでの軌跡をつづったノンフィクションでもあるんですが、装丁もきれいで、何より著者の千恵さん自身がすごく面白い。今は八ヶ岳でオオカミ犬と暮らしていますが、大学時代は探検部に所属し、アラスカやカナダを深く旅していた根っからの旅人なんです」
読書によって培われた、旅への憧れ
- 『旅へ―新・放浪記〈1〉 (文春文庫)』
- 野田 知佑
- 文藝春秋
- 648円(税込)
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子どもの頃から本が大好きで「トムソーヤーの冒険」や「ロビンソン・クルーソー」といった冒険・探検ものに夢中になった。中学生の頃にはカヌーイスト・野田知佑の影響もあり、カヌーで川下りを始める。
「『川からの眺め』や『日本の川を旅する』シリーズ、『川へ-新・放浪記』など、野田さんのエッセイやルポを中高生のときに読んだことで、旅への憧れはどんどん強くなっていきました。旅をしながら写真を撮り、文章を書くという生き方に憧れるようになったのは、同じく中学生くらいのときに読んでいた椎名誠さんの影響もありますし、アラスカに行くきっかけは写真家の星野道夫さんの本でした」
未知なるフィールドを自分自身の目で見て、体験したい。その思いに突き動かされるように世界中を駆けめぐってきた。そんな石川さんが憧れるオトコ像。それは「自分の信念に従い、正直に生きている人」だという。
「僕が尊敬しているのは猪谷六合雄(いがやくにお)さんです。まだ日本にスキーが入ってきていなかった時代に自らスキー板を作り、独自に編み出したスキー理論と練習法で息子を日本人初の冬季五輪メダリストに育てあげました。彼はスキーに取りつかれて山小屋を自力で建て、ジャンプに失敗して体中にケガをしながらも飛びまくった。『自分に合う靴下がない』と言って、試行錯誤しながら靴下を作り続けたり、晩年は自分で改造した車中で寝泊まりしながら暮らしています。97歳で亡くなるまで己を貫き通した、まさに信念の人なんです」
どこに行くかは重要ではない
“辺境"と呼ばれるエリアから都市まで、世界各地を訪れ、写真を撮り続ける。そんな石川さんの生き様もまた、“信念の人"を体現しているように見える。しかし、ご自身は「とくに意識はしてない」という。意外に思えるほどの気負いのなさはどこから来るのだろうか。
「多くの人が行かないような場所を歩くことで、“冒険家"などと呼ばれることもあります。でも、僕自身は冒険家という肩書きには違和感があるんです。ぼくが『最後の冒険家』で描いた熱気球冒険家の神田さんのような冒険をぼくは何一つしていません。自分にとって大切なのは、どこに行ったか、何をしたかということではなく、その瞬間に何を感じられたか、或いは、心を揺さぶる何かに向かい合っていたかどうかということなんです」
その思いは「何かを感じなければシャッターを切らない」というスタンスにもつながっている。
「何を撮るのかではなく、なぜ撮るのかを大事にしたいと思っています。もともと写真を撮り始めたのは旅を記録するためでしたし、特に写真集などは、未知への驚きや感動といった、身体の反応の集積と言えるかもしれません」
「生きる、とは何か」を問いかける一冊
- 『サバイバル!―人はズルなしで生きられるのか (ちくま新書)』
- 服部 文祥
- 筑摩書房
- 821円(税込)
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とらわれたくないと強く願うほど、世間の枠にとらわれる。漠とした不安に振り回され、人生の手応えを感じることができずにいるという人は決して少なくない。そんな悩みを抱える男性陣に、石川さんがおすすめする一冊は『サバイバル!』だ。
「この本に書かれているのは、比喩としてのサバイバルではありません。最小限の装備で山に入り、どう生きのびるかという、文字通りのサバイバルです。持参するのは米と調味料のみ。あとはイワナや山菜など山で採れる獲物で食いつなぎます。多くの人が自分を押し殺し、死んだように生きざるを得ない中で、“生"をストレートに体感し、極限状態に身を置きながら自然のそばにいる人もいる。そうした生き様に触れることは、自分の中に眠っている野性をほんの少しでも目覚めさせてくれるかもしれません。生きるとは何か、ということを考えさせられる一冊です」
プロフィール:
1977年生まれ。写真家。
2008年、講談社出版文化賞、日本写真協会新人賞受賞。
著書に『いま生きているという冒険』、『この地球を受け継ぐ者へ』、開高健ノンフィクション賞を受賞した『最後の冒険家』など多数。
- 『VERNACULAR』
- 石川 直樹
- 赤々舎
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- 『石川直樹 写真集 Mt.Fuji』
- 石川 直樹
- リトル・モア
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- 『最後の冒険家』
- 石川 直樹
- 集英社
- 1,728円(税込)
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- 『いま生きているという冒険 (よりみちパン!セ)』
- 石川 直樹
- 理論社
- 1,512円(税込)
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