北尾吉孝さん
SBIという総合金融グループを率いる経営者であり、中国古典に精通していることでも知られる北尾吉孝さん。言葉の端々に孔子や孟子の教えが登場する。金融とインターネットの最先端で活躍する豪腕実業家を育んだ一冊とは――。
大切なことはすべて古典が教えてくれた
1日2~3時間は読書にあてる。ビジネス界きっての読書家
今年で設立10年目を迎える、SBIホールディングス。ネット証券の最大手SBI証券(旧・SBIイー・トレード証券)や住信SBIネット銀行などを傘下に抱える、この巨大グループを率いる北尾吉孝さんは、ビジネス界きっての読書家としても知られている。
「土日は、食事をしている時以外はほとんど寝転がって本を読んでいます。平日も1日2~3時間は読書の時間にあてている。早起きで朝4時には目が覚めてしまうので、それからだいたい6時まで寝床の中で本を読むんです。ベッドの横にはいつも、大量に本がたまっていますよ(笑)」
蛍光ペンの色でわかる、心の変化と成長
愛読書は『論語』。中学のときに初めて、『論語』に触れて以来、何度となく読み返してきたという。
「気になった場所に蛍光ペンで線を引きながら読むんですが、読む時期によって線を引く箇所が変わるんですよ。社会での経験や体験が増えるにしたがって、読み方もまた深くなるんでしょうね。すぐれた書物は読むたびに、新しい発見がある。蛍光ペンを何色か使い分けて、読んだ時期によって色を変えておくと、自分の心の変化や成長がわかって面白いですよ」
心を惹きつけてやまない、論語の魅力
幼い頃から、父親から『論語』をはじめとする中国古典のフレーズを聞かされていたという北尾さん。次第に中国古典に親近感を持つようになり、自分でも勉強するようになったそうだ。
「簡潔な言葉の中に、ものごとの真理が隠されているのが『論語』の魅力ですね。例えば、『死生 命あり 富貴 天に在り』という言葉があります。『生きるか死ぬかはまさに天命であり、金持ちになるか貴くなるかも、これまた天の配剤である』という意味です。自分の身に起きたことはすべて天命だと思えるようになると、失敗してもクヨクヨ悩まなくなる。精神的なストレスが減るので楽になるんです。論語は、こうした実践に役立つアドバイスの宝庫。何か問題に直面している時に読むと、目の前がパッと開けてくるんです」
マンガや小説からのスタートでもいいんです
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「いい仕事をするためには、人間としての成熟が必要不可欠」というのが、北尾さんの持論だ。ハウツーものではなく、精神の糧となるような本を繰り返し読む。その積み重ねが確固たる人生観や仕事観につながるという。
「最初はマンガや小説でもいいと思うんですよ。例えば、『三国志』をモチーフにした、マンガを読んでみる。吉川英治の『三国志』もいいですね。フィクションであっても、主要な登場人物は同じですし、『三顧の礼』や『天下三分の計』も登場する。それらをまず読んでみて、面白さを感じたら、今度はやさしく書かれた入門書を読んでみるといい。次に、原典を読んだり、いろんな人が書いている解説書を読む。例えば、『論語』で言うなら『論語に学ぶ』(PHP研究所)や『論語力』(講談社)あたりがおすすめですね」
楽しみながら、少しずつ読む本の難易度のレベルを上げていく。これは古典全般に応用できる方法だという。
「心底敬愛し、教えを請いたいと思うような"心の師"を持つことも大切ですね。私の場合でいうと、孔子と孟子、そして安岡正篤先生ですね。安岡先生のようには東洋の思想から西洋哲学まで、様々な古典を解釈できる人物によって書かれた本は、自分の精神性を高める上で役に立ちます。とくに『日本精神の研究-人格を高めて生きる 』や『いかに生くべきか-東洋倫理概論』(ともに致知出版社)は、古典の世界に足を一歩踏み入れるにあたっての水先案内をしてくれる、おすすめの一冊です」
投資のセンスや経済を見る目を養う一冊
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先行き不透明な情勢が続く中、着実に事業を拡大してきた北尾さん。投資に興味がある20代~30代におすすめの本は?
「投資のセンスを磨いたり、経済を見る目を養いたいという人であれば、理論的なものでは『日本経済のリスク・プレミアム』(東洋経済新報社)、初心者の方には『自分に最適な資産運用が一目でわかる本』(高橋書店)がおすすめですね。ただし、書物を読むだけではなく、自分で経験して痛い目に遭うことも必要。私自身もそうなんですが、世の中の経済や相場をずっと見続けていると、自分なりの経済の見方や相場観が自然と出来上がるものなんです」
読書の目的は知識を仕入れることではない。自分の体験や経験と照らし合わせ、思索することで、一歩先を読む力が養われるのだという。
「自分の頭で考えながら本を読み、次は実地でやってみる。努力し続けると同時に、自分の行いが果たしてそれでいいのかと自問自答を繰り返すことが自分という人間を育ててくれるんです。『君子を目指せ 小人になるな』にも書きましたが、自分なりの君子像をつくるといい。その君子像と比べて、自分がどうなのかを毎日反省すれば、少しずつより良い自分に近づけるというわけです」
人生は一生、勉強。寸暇を惜しんで努力し続ける理由
最近は『易経』を勉強し始めたという北尾さん。易経とは儒教の基本テキストとされる「五経」の筆頭にあげられる書物で、難解なことで知られる。
「"易"というと占いというイメージがありますが、『易経』はものごとの兆し、さらにものごとの動きのツボ、そしてタイミングをつかむための指針につながる学問です。若い頃から何度か勉強しようと思っては、あまりの難しさに何度も挫折しているんですが、今までさまざまな中国の古典を勉強してきて、やはり最後に行き着くのは『易経』だろうと。人生は一生、勉強。どんなに長生きしたくても、いつ死ぬかは天が決めることですから、くだらないことに時間を費やしている場合ではない。 寸暇を惜しんで、自分ができることを一生懸命やり続けることが大切です」
1951年兵庫県生まれ。74年慶大卒、同年野村證券入社。ニューヨーク拠点、事業法人部などを経て、95年ソフトバンク常務。現在、SBIホールディングス代表取締役執行役員CEO。著書に「君子を目指せ 小人になるな」(致知出版)など。
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- 『中国古典からもらった不思議な力―視点がブレなければ、行動もブレない! (知的生きかた文庫)』
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