『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る』2013年のNo.1でいいでしょ!

文=成毛 眞

鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)
『鳥類学者 無謀にも恐竜を語る (生物ミステリー)』
川上 和人
技術評論社
2,030円(税込)
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早くも2013年成毛眞のおすすめ本NO.1が登場してしまった。今年はこれ以上面白い本に巡りあうこともないであろうから、2013年の本読みは3月吉日にて終了である。あとは惰性でつまらん仕事をするなり、散歩代わりのゴルフに出かけるなりして、ヒマをつぶすしかないであろう。じつに残念なことである。ともかく本書はめったにお目にかかれない傑作なので買うべきです。以上です。それではみなさんさようなら。また来年お会いしましょう。

などと言ってられない事情がある。HONZを運営するためのサーバー費用を稼がねければならぬ。しかたがないので本書の中身をちょっとだけご紹介してみよう。とはいえこのレビューを読む時間があったら、いますぐ本屋に向かったほうが良いと思うのだが・・・ま、いいか、しつこいか。本書は鳥類学者が無謀にも恐竜を語った本である。これではタイトルどおりだ。良くできた本や映画は説明が難しい。つまり全文を引用したくなるわけで、説明するのも面倒だし、まあ黙って読めばいいじゃん、となってしまうのだが、気をとり直して少し引用してみよう。


序章は恐竜とはどんな動物かについての章だ。冒頭、恐竜には鳥盤類と竜盤類の2つのグループがあり、鳥類は竜盤類の中の獣脚類から進化してきたと考えられるという説明がある。ここまで17行。ここでちょっと面倒くさそうな本だと思ってはならぬ。18行目以降はこう続く。


ところで、鳥盤類や鳥脚類というグループには鳥という漢字が入っているが、系統的には鳥類とは関係ない。獣脚類も「獣」とついているが、哺乳類とは関係ない。豚と真珠くらい無関係なのだ。あまりにまぎらわしいので名づけ親には一言物申したくなる。ついでに、トゲナシトゲトゲとクロサギの白色型もまぎらわしさでは引けを取らない。みんなまとめて正座させて説教してやりたいものである。


はっ?!トゲナシトゲトゲ?!クロサギの白色型?!なんだそりゃ。丁寧に作りこまれた脚注を見るとトゲナシトゲトゲとはハムシ科の甲虫のことでトゲハムシの仲間なのにトゲがない種類であること。ペリカン目サギ科のクロサギには黒型と白型の2種がおり、クロサギをいう魚類もいるので注意されたい、とのことである。恐竜とも鳥類とも関係ないじゃん!ともかく著者はその紛らわしい名前を咎めるべく、彼らを正座させて説教したいらしいのだが、文章はさらにつづき・・・

さて、いきなり話がそれるが、ここで「恐竜」という言葉について、便宜上の定義をしたいので聞いてほしい。

わっ!!いきなり話がそれてしまったではないか。なんなんだ!そして、なんだか可愛らしい恐竜イラストの系統樹を使いながら、恐竜と鳥類について花鳥風月ならぬ花竜風月だのといった話が1ページつづいたあと。

次に恐竜を取り巻く動物との関係を見ていこう。恐竜が爬虫類であることは、発見当初から異論がなく認められてきたことだ。クラゲの仲間だと思っていたという人には、この本の内容は衝撃的すぎるので、ここで本を閉じてもらいたい。

た、たしかに、恐竜をクラゲの仲間だと思っている人は・・・それはともかく、もうお分かりであろう、本書を読むにあたってはいささかのスキも見せてはいけないのだ。本文も脚注もイラストも油断ならないのだ。つづく第1章でも

なにしろ、恐竜のことはわからないことだらけなのだから、鳥から類推するしかない。このことこそが、この本のテーマであり、ここから先の大前提である。今からでも遅くない、この大前提に賛成できない読者は、庭で飼育しているヤギにこの書籍を食べさせた末に、ヤギ乳でも飲み、健康増進に邁進すればよい。

普通の読者が庭でヤギ飼ってるかってえの、ハハハ!いかんいかんいかん、ちゃんとした科学読み物なのに1ページに1回は我慢していても爆笑してしまう。電車の中で読んではならない科学書などまさに前代未聞だ。著者はこの調子で268ページを駆け抜ける。しかし、本書がただただ楽しい科学書だからという理由だけで2013年No1などと言っているのではない。じつはイラストも本のデザインも素晴らしいのだ。

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新生代に入って恐竜がいなくなったニッチを埋めた恐鳥類のイラストである。か、かわいい〜!

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恐竜もただただ獲物を威嚇するために吠えるだけでなく、縄張りの主張、求愛など複雑な音声コミュニケーションをしていたかもしれないというイラスト。なにこれ!か、かわいい〜!

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もし、夜行性の恐竜(獣脚類)がいたらこうなるというイラストだ。目がフクロウのように大きく、耳も発達している。か、かわいい〜! もう、恐竜に萌え萌えである。

イラストレーターのえるしまさくさんは、本書のためにざっと100点近くのイラスト描き下ろしているようだ。えるしまさくさんは召喚獣の手というイラストブログを開設しているのだが、書籍へのイラスト提供は本書がはじめてらしい。今後の活躍を期待できるイラストレーターだ。ちなみに「L 島作」さんではなく「L島 さく」さんとのことだ。ややこしい。

さてと、最後に本書はただただ笑いながら、可愛いイラストを眺めるだけの本ではないことを付け加えておきたい。いや付け加えるといっては著者に失礼である。本書をおすすめする真の理由は本書が立派な科学書であるということだ。それでは楽しさとイラストは偽の理由かというと、そうではないのでややこしい。しかし、ここでわざわざ真理値表を使う必要もなかろうから、とりあえず一歩前に進むことにしよう。

物理学ではアインシュタインや湯川秀樹に代表されるように理論物理学者が数学というツールを使って仮説を作り出し、実験物理学者が実験系をつくりだして、それを検証するというプロセスが基本だ。この仮説・実験・検証のプロセスはビジネスにも応用できる、というよりビジネスマンこそはこのプロセスに馴染んでおく必要があると常々主張してきた。経営者の思考プロセスはサイエンティストと似ているのだ。で、本書はまさにその仮説を大量に提示するのである。

もし仮説が恐竜学・古生物学にとって馴染みがないというのであれば、思考実験といっても良い。著者は恐竜学の論文や化石を目の前にしながら、鳥類学の立場から壮大な思考実験をする。恐竜の色、鳴き声、毒をもっていた可能性、渡り(季節によって長距離移動すること)、巣作り、両足でとぶホッピングをしたか、子育てをしたか、夜行性など、これまでの恐竜に関する本ではあまり語られることのなかった思考実験が満載なのである。

また、当然のことながら鳥類についての知識もサブリミナル効果のごとく頭のなかに入ってくる。なぜハトは首を前後に振りながらポッポと歩くのか、分子分類によってハヤブサはタカの仲間ではなくスズメやオウムの仲間だったこと、鳥の成長過程やエサの体内通過時間、鳥の尾はなぜ抜けやすいのか、などなど少なくとも鳥類と鳥類学者はじつに興味深い生きものであることが良く判る。

著者の川上和人氏は独立行政法人森林総合研究所の主任研究員。小笠原諸島にくらす鳥類を研究しているという。これはもうダイバーとしては憧れの小笠原まで著者インタビューに行くしかない。愛車はドカティ・ムルティストラーダとのことだから、普段は森総研(この略でいいんだろうか。森ビルの子会社みたいだ。アハハ)のあるつくば市で勤務しているのだろうか。だとしたら無粋である。

じつは著者は脚注でもハーレーとビューエルの違いを説明しているほどだから、バイク好きであることは間違いないので、そのムルティストラーダの写真を貼り付けておこう。所有されているバイクの個体の色は恐竜の色と同様で判らないから、著者の文体から推測して赤と勝手に断定してみた。真っ赤な鳥、カーディナルの赤だ。勝負!

(イラストの掲載にあたっては許諾をいただいています)

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