やっぱり“売れた本”はおもしろい!
「本の雑誌」に2011年から4年にわたり連載された「ベストセラー温故知新」を再構成し一冊にまとめた、ベストセラー嫌い、あるいはベストセラーを読まない人のためのベストセラーガイドです。
ビジネスマンの虎の巻として全世界で1500万部以上を売り上げた未曾有のロングセラー、D・カーネギー『人を動かす』から、『日本沈没』『ノストラダムスの大予言』『積木くずし』などの社会現象化した小説、トンデモ本、ノンフィクション、そして戦後最大のベストセラー『窓ぎわのトットちゃん』まで、ほとんどの本を初めて読んだ著者は、あるときはあまりの紋切型なエピソードの羅列に怒り、あるときは意外な密度の高さに唸り、またあるときは売れすぎた作家に同情さえ覚えます。
概要から時代性、なぜ売れたのかの分析、そして本としての値打ちまで、切れ味鋭いイケズな文体でばしばしと解読し、新たなベストセラー像を浮かび上がらせる画期的な一冊。
■四六判並製 ■288ページ
〔まえがき的なもの〕
世の中には「ベストセラーしか読まない」という人たちがいる。同様に自分を含め「ベストセラーだけは読まない」という人たちもかなりいる。基本的には流行に乗るのは恥ずかしいという自意識が働くからだ。軽佻浮薄と思われたくないと人目を気にしているのだ。
本書は、そんな後者のためのベストセラーガイドである。売れてるからという理由で読まず嫌いしていると、せっかくの読書の愉悦を見逃してしまうのではないか。それは、もったいない......というのが執筆動機だった。
結果だけいうとベストセラーというのは活字で構成された書籍の形はしていても厳密な意味で【本】ではなかった。ベストセラーを読むという行為も【繙く】とは別の愉しみであるような気がした。それらは著作というより事件であり、拝誦するというより目撃しているって感じ。それらは時代の証言だった。
書物であることを忘れて読めばヒット本というジャンルは頗る興味深い。
というか〝ベストセラー嫌いの本好き〟だからこそベストセラーは面白い。なぜって活字に親しんだ人々は、物語を、随想を、ルポやハウツーを通して、その世情を生きた大衆の気配を解析する術を知っている。ゆえにそれはエキサイティングな読書体験になり得る。とりわけ過去のビッグヒットは俯瞰点が高いので見えてくるものも多い。
天地は万物の逆旅。光陰は百代の過客。ベストセラー笑傲すれば滄州を凌ぐ。なんちて。
〔目次〕
I
カーネギーは一休さん!? 『人を動かす』D・カーネギー(1937)『道をひらく』松下幸之助(1968)◉8
笑いと韜晦に満ちた航海記 『どくとるマンボウ航海記』北 杜夫(1960)◉16
社会派ミステリとワイドショー 『砂の器』松本清張(1961)『人間の証明』森村誠一(1976)◉24
戦後を映すふたつの「人間ドラマ」 『白い巨塔』山崎豊子(1965)『氷点』三浦綾子(1965)◉32
現代まで読み継がれる普遍の書 『恍惚の人』有吉佐和子(1972)◉40
『日本沈没』のクリアな視線 『日本沈没』小松左京(1973)◉47(試し読みPDF)
ノストラ万博のパビリオン 『ノストラダムスの大予言』五島 勉(1973)◉55
〝イズム〟なき時代のオピニオンリーダー 『スプーン一杯の幸せ』落合恵子(1973)『負け犬の遠吠え』酒井順子(2003)◉63
作家が訳したヒッピーの夢 『かもめのジョナサン』R・バック(1974) 『ぼくを探しに』S・シルヴァスタイン(1977)◉71
似て非なる二つのデビュー作 『限りなく透明に近いブルー』村上 龍(1976)『ベッドタイムアイズ』山田詠美(1985)◉79
今こそ読みたい『不確実性の時代』 『不確実性の時代』J・K・ガルブレイス(1978)◉87
百恵と友里恵の奇妙なシンクロ 『蒼い時』山口百恵(1980)『愛される理由』二谷友里恵(1990)◉95
II
「個性の時代」の自由の女神 『窓ぎわのトットちゃん』黒柳徹子(1981)◉104(試し読みPDF)
『なんクリ』と『なんとなく、クリスタル』のこと 『なんとなく、クリスタル』田中康夫(1981)◉112
自虐と妄想のエンターティナー 『ルンルンを買っておうちに帰ろう』林 真理子(1982)『野心のすすめ』林 真理子(2013)◉119
『積木くずし』クロニクル 『積木くずし』穂積隆信(1982)◉127
『見栄講座』と羞恥プレイ 『見栄講座』ホイチョイ・プロダクション(1983)◉134
プリマのお仕事 『サラダ記念日』俵 万智(1987)◉142
りえとゴクミの砂時計 『ゴクミ語録』後藤久美子(1987)『Santa Fe』宮沢りえ(1991)◉150
深化した〝元祖中二病ノベル〟 『ノルウェイの森』村上春樹(1987)『1Q84』村上春樹(2009)◉158
『キッチン』と少女マンガのリアリズム 『キッチン』吉本ばなな(1988)◉166
石原慎太郎の〝金玉感覚〟に仰天 『「NO」と言える日本』石原慎太郎・盛田昭夫(1989)◉174
『完全自殺マニュアル』は『家庭の医学』である! 『完全自殺マニュアル』鶴見 済(1993)◉182
III
死の淵で読んだ『大往生』 『大往生』永 六輔(1994)◉192
限りなく透明に近いベストセラー 『遺書』松本人志(1994)◉200
『五体不満足』とマイノリティの戦い 『五体不満足』乙武洋匡(1998)◉208(試し読みPDF)
〝ビジネス論客〟の『戦争論』 『戦争論』小林よしのり(1998)◉216
友情・努力・勝利の四億部ファンタジー 『ハリー・ポッターと賢者の石』J・K・ローリング(1999)◉224
背中合わせの殺戮と純愛 『バトル・ロワイアル』高見広春(1999)◉232
〝同じ穴の貉〟な二冊の論争 『買ってはいけない』「週刊金曜日」編集部(1999)『「買ってはいけない」は買ってはいけない』夏目書房編集部(1999)◉240
せよせよ詐欺のミレニアムビジネス書 『チーズはどこへ消えた?』S・ジョンソン(2000)『金持ち父さん貧乏父さん』R・キヨサキ(2000)◉248
セカチューの行間で荒井注が叫ぶ!? 『世界の中心で、愛をさけぶ』片山恭一(2001)◉256
辛口な意見が闘う知性のアリーナ 『バカの壁』養老孟司(2003)◉264
糸を引かないベストセラー 『東京タワー』リリー・フランキー(2005)◉272