もっとも作家に愛された書体
戦後文学の金字塔、三島由紀夫『金閣寺』で使われた本文書体は、当時できたばかり、新しい時代に対応すべく徹底的にリデザインされた「精興社書体」でした。
それまで見たことがなかったほど洗練されたフォルムをもつ新書体を得て『金閣寺』はまたたく間にベストセラーとなり、本作りの時代の変化を告げました。
それから30年──。精興社書体は、村上春樹『ノルウェイの森』で、本文だけでなくカバーの書名題字にも使われ、ハルキ・ワールドを膨大な数の読者の目に焼きつけることになります。
上品で静謐なしなやかさに特徴があり、岩波書店、新潮社、福音館書店、筑摩書房、みすず書房等々の人文アカデミズムや古典/現代文学、児童文学など数々のベストセラーや名作本をサポートしてきました。また、司馬遼太郎から堀江敏幸まで幾多の作家を魅了し、編集者やデザイナーなどの出版関係者、そしてなにより多くの読者に愛されているオンリーワンの傑作書体です。
本書では、親しまれながらもあまりスポットがあたってこなかった「精興社書体」を主役として、『文字の食卓』(本の雑誌社)で書体を読み解き、注目を浴びた正木香子さんが、文字と言葉がおりなす深い味わいを伝えます。
■四六版並製 ■224ページ