第8回:綿矢 りささん
「作家の読書道」第8回は、昨秋「インストール」で第38回文藝賞を受賞した、綿矢りささんです。最年少17歳での受賞、美少女作家誕生などなど、話題に事欠かない綿矢さんですが、果たしてその素顔は?
取材場所として彼女が指定したのは、京都の実家近くにあるファミリーレストラン。ごく日常的な風景の中に現れた彼女は、ごく普通の高校生の感覚で、本に対する熱い思いを語りはじめました。
(2002年2月更新)
【本のお話はじまりはじまり】
―― 本は以前からよく読んでいたんですか。
綿矢 : はい。小学生のころから、親も本をよく買ってくれたし、あとは親戚にもらったりもしていました。
―― その頃はどんな本を?
- 『風と共に去りぬ(5)』
- マーガレット・ミッチェル(著)
- 新潮文庫
- 780円(税込)
- 『レベッカ(上)』
- ダフネ・デュ・モーリア(著)
- 新潮文庫
- 660円(税込)
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- 『言い寄る』
- 田辺聖子(著)
- 文春文庫
- ※品切・重版未定
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綿矢 : カニグズバーグの「クローディアの秘密」や「魔女ジェニファと私」とか。あとは「クマのプーさん」、「モモちゃんとあかねちゃん」、ミヒャエル・エンデの「はてしない物語」などの定番どころは何度も読みましたね。
―― 本は繰り返し読むほうですか?
綿矢 : はい、すごく。今日持ってきた「風と共に去りぬ」は、中学時代に全5巻を一気に読んで、その後も5~6回は読んだと思います。
―― 読み返すにつれて、読後感が変わったりしませんか。
綿矢 : そうですね。「風と共に去りぬ」はスカーレットの本筋の話ももちろんおもしろいけど、サイドストーリーというか、主人公以外の人生もそれぞれに戦争によってくるっていく。その人生がそれぞれに壮大に描かれていて。それで読むたびに新しいキャラクターに感情移入したりとか。「レベッカ」にしても、中学の頃は「 」(かぎかっこ)の会話部分をつないでいって、ストーリー展開を楽しむ、という読み方だったんですけど、高校に入ってからは料理の描写などのディテールを読み込むのが楽しくなってきました。
―― 田辺聖子の本も、持ってきていただきましたが、今どきの高校生にしては珍しい路線なのでは?
綿矢 : そうですね。これは親戚に勧められたのが読むきっかけになったので。最初に読んだのは中学生の時ですけど、おもしろくて何回も繰り返して読んでますね。登場人物が個性に親しみやすく、描かれています。この小説の主人公の30代の女性が好きになるゴロちゃんが、一番思い入れがありますねえ。この話は結局失恋で終わるんですけど、ラストもすごくよかったです。
―― 人から勧められて読むことが多いんですか?
綿矢 : 最近は図書館で選ぶことが多いです。図書館に行って、そこで話題になっている本とか、友達の情報とかをもとに選んで読みます。そこで気に入った作家があると、その人のものをどんどん読む。特に気に入ったものは本屋さんで買うんです。
―― 一度読んだものを買うんですか?
綿矢 : そうです。何しろ一ヶ月のお小遣いが5000円しかないので。そこから本に使えるお金は、えーと、マンガも合わせて2000円くらいかな。だからもう、すごく厳選して、絶対ハズレのないものを買います。それに、読んで気に入った本は手元に置きたくなる、という気持ちもありますね。そして買ったからには何度も何度も読む。
―― 元を取る意気込みですね。
綿矢 : そうです! 一度に何冊もまとめて買う、ということもできないし。私にとって本を買うのって、かなりの大ごとなんです。
―― 図書館はどこへ?
綿矢 : 京都市の図書館もよく行きますけど、高校の図書室が一番好き。新刊もよく入るし、選びやすいし。自分の本が置いてあるのはちょっと恥ずかしいですけど。
―― マンガもよく読むんですか?
綿矢 : マンガは最近では、古本屋さんで見つけた紡木たくの「瞬きもせず」がよかったです。あと、いくえみ綾の「ポップス」とか。
―― ちょっと古いですねえ。
綿矢 : そうなんですよ。学校の友達に言ってもわかってもらえない。
―― 作家ではどんな人が好きですか?
- 『キッチン』
- 吉本ばなな(著)
- 角川文庫
- 420円(税込)
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綿矢 : 村上春樹さん。彼の作品は初期のものが好きで、中でも「風の歌を聴け」がいいですね。場面の切り替えとか、よく分からない感じでバーッと続いて行くんだけど、読んでいて気持ちがいい。そして内容は決して軽いわけじゃないのに、軽々と展開していく文章が好きですねえ。
吉本ばななさんの「キッチン」は小学生以来、数え切れないくらい再読しました。これは私の中でも最多再読記録かも。ほんとに何度読んだかわからない。もう暗誦できるくらいです。
あとはあのー、町田康さんの「人間の屑」なども何度も読んでます。
それから最近は曾野綾子さんの「長い暗い冬」。これはずっと読みたかった本。でもなかなか本屋さんに売ってなくて、先日東京に行ったときに手に入れました。怖い雰囲気の醸し出し方が上手だなあ、と思いました。
―― かなり読んでいらっしゃるようですが、本はどのくらいお持ちなんでしょう?
綿矢 : 何冊くらいだろ? 部屋に小さな本棚が3つあって、そのほとんどが文庫です。
―― それをどこで読んでますか?
綿矢 : ほとんど家で読みますね。はじめは座って読んでますけど、だんだん腰が痛くなって、気づくと横になって読んでます。図書館で借りた本が多いから、なくすのもこわいし、旅行にも持っていかない。良く読むのは特にテスト前。現実逃避なんですけど。それとテスト前はなぜか推理小説を良く読みますねえ。森博嗣さんとか、京極夏彦さんとか。『インストール』を書いたのも、そもそもテスト前の逃避したかった、というのがきっかけでした。でも気がつけば、その逃避の方が生活の中心になっちゃってましたね。
- 『インストール』
- 綿矢りさ(著)
- 河出書房新社
- 1,050円(税込)
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―― 読書のスピードは早いほう?
綿矢 : けっこう早いですねえ。でも自分の本(インストール)だと、30分もあれば終わっちゃうから、短いなあと。こんな分厚くなってますけどね。実は紙も厚いんですよー。
―― 文芸以外の本も読みますか?
綿矢 : 最近では、なんだろなあ、香川県のタウン誌を書籍化したのがおもしろかった。こういう校則はイヤとか、雑誌の投稿欄みたいな、たわいもない話を並べてあるんですけど、香川県の方言そのままで勢いよく書いてある所がおもしろかったです。
【いろいろな話】
―― インターネットはどんなふうに使ってますか?
綿矢 : 個人の日記とか好きなんで読むかな。いつも決まって読んでいる日記とかありますよ。あとはヤフーオークション。売ったり買ったりしたことはないんですけど、ただ、これがこのくらいの値段なんだあ、というのを見ているのがおもしろい。ああこの間、自分の本が中古で売られているの発見してちょっとさびしいながらも、うれしかった。私も参加できてる!って思って。
―― 綿矢さん、本名ですよね。
綿矢 : いえ、ペンネームです。これは自分で考えました。画数も姓名判断で調べて。だから2週間もかかりましたよ、決まるまで。他にも、一宮りさとか、いろいろあったんですが、宮の字はあかん、とか占い師に言われて。
【立ち寄る本屋さん】
―― 書店はどこが好きなんですか?
綿矢 : 本に使えるお金が限られてますから、買うのは文庫が基本。だから自分の好きな作家の作品が、文庫で全部揃っていたり、というのが書店選びの基本です。だからといって大型書店ならいいというものでもなくて、とにかく好きな作家の文庫の充実かげんですねえ。最近は、ヴィレッジ ヴァンガードかな。
―― 今から行ってみませんか?
綿矢 : えっ、はい。
綿矢さんお気に入りの
ヴィレッジ ヴァンガード京都北山店
というわけで、ヴィレッジ ヴァンガード京都北山店へ移動です。クルマで約15分ほどの距離です。
―― いつもはどうやって行くんですか?
綿矢 : もちろん自転車です。だいたい40分くらいかなあ。
―― わあ、たいへんですねえ。坂も多いですよね。
綿矢 : そうですよ。でもみんな自転車使うんで。坂も必死で。
すごいですよ。自転車で頑張ったら行ける距離なら、京都の高校生は自転車が基本ですから。
ヴィレッジ ヴァンガード京都北山店では、本選びに没頭してしまった綿矢さん。もう取材するのが憚られるほど集中しています。
書籍担当の大八木さんは、「こんなに大きいポップ作ったのに、『インストール』の増刷分が全然入ってこない」とお嘆きのご様子。河出さん、早く配本してあげてくださいね。
真剣な眼差しの綿矢さん
「綿矢さんが最初に来はった時は
ほんまに驚きましたよ~」 と大八木さん