作家の読書道 第92回:誉田哲也さん

『ジウ』や『ストロベリーナイト』シリーズといった女性が主人公の警察小説が大ヒット、と同時に剣道に励む対照的な2人の女子高生を描く青春小説『武士道シックスティーン』シリーズでも人気を博している誉田哲也さん。バンド活動を続け、自分で作詞作曲もしていたという青年が、小説を書き始めたきっかけとは? ラジオで耳にし、その後の創作にも影響を与えた本とは? 意外なエピソードがたっぷりです。

その1「文庫本に目覚める」 (1/7)

――幼い頃の読書の記憶といいますと。

誉田 : 本当に古い記憶となると、6つ上の姉の怪談本というかお化けの本なんかが本棚にあるのを盗み見ていたことは覚えているんです。怖いけれど見たい、という。自分でちゃんと本を読んだということになると、ちょっと前フリが長くなるんですけれど、『犬神家の一族』が映画化されたんですね、角川映画で。昭和51年くらい、ボクが6歳か7歳の頃だったと思います。姉がそれの文庫版を読んでいたんです。テレビで宣伝している映画とこの文庫本が同じなんだ、ということがすごく不思議で、文庫本を読むのは面白そうだ、と思いましたね。何が読みたい、ではなく文庫を読みたい、という。

――それで6、7歳で横溝正史を手にとって。

誉田 : ルビもそんなにないし、明らかに読めない(笑)。それで僕に読める文庫はないのかと姉に聞いて、教えてもらったのが星新一さん。ですから意識的に読んだ本というと『ボッコちゃん』とかになるんでしょうか。少年探偵団のシリーズなんかもありましたが、僕は全然読まなくて。

――おお。誰もが通過儀礼のように必ず読むあのシリーズを。

誉田 : 僕は普通のものを通過していないので、ものすごく無知なんです(笑)。『ボッコちゃん』は子供にはシュールすぎて何が面白いのか分からないのもありつつ、何かでお金儲けしてすぐダメになるといった話もあって、それが面白くて。雰囲気ですよね。記号化された未来っぽい設定が好きでした。あの、無菌状態みたいな感じが。

――どんな子供だったんですか。

誉田 : 絵を描くのが好きでした。絵画ではないです、漫画のような、イラストのようなものですね。13、14歳くらいまでは絵を描いていたんです。漫画家になりたいという気持ちもあったんですが、ある日、コマ割りを自分でしなければいけないと気づいたんです。テレビか何かで漫画家の作業を紹介していて、それを見たんでしょうね。それで、コマ割りというのは誰かが決めてくれるものじゃないんだとハタと気づいて、ダメだこりゃと思いました。

――絵の技術でも物語創作でもなく、そこですか(笑)。漫画はどんなものを読まれていたんですか。

誉田 : 『デビルマン』と『ポーの一族』。この二つは大きいですね。

――『デビルマン』はアニメでもありましたよね。

誉田 : アニメも見ましたけれど、原作を読むとテレビはなんてぬるいんだろうと思いました。パンツはいてますからね。本では下半身は毛だらけなんです。尻尾も生えている。テレビに比べるとものすごくグロテスクなんですよ。すっげーな、と思いつつ、その怖さがよかった。あまり少女漫画は読まないんですけれど、『ポーの一族』は自分たちだけが時間をこえていくという切なさがよかった。

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――吸血鬼の一族なんですよね。デビルマンも、自分と人間社会に対する葛藤がありますよね。

誉田 : そうですね。『ボッコちゃん』以降、眉村卓さんや平井和正さんといったSFっぽい小説も読むようになったのですが、『ウルフガイ』シリーズなどもそれと近いものがありますよね。ああ、小説でもこういうものがあるんだなと思いました。それと、僕はガンダムのファースト世代なんですが、全話をビデオに録って保存するといった時代でもなかったんですね。手元にガンダムを置いておきたいとなると、朝日ソノラマ文庫から出ている富野喜幸さんが書いた小説『機動戦士ガンダム』を買おう、となる。でも正直、難しくて読みづらかったですね。そこから、同じ朝日ソノラマ文庫の菊地秀行さんの『吸血鬼ハンター"D"』シリーズや夢枕獏さんの『キマイラ』シリーズに進みました。平井さん、眉村さんあたりは家の本棚にあった本なんです。でもそれはノベルズだったんですね。基本は文庫を持って格好つけたいので(笑)、それで買うようになって。そこまでは家の本棚経由だったんですが、菊地さん、夢枕さんは自分で選んだ初めての本だと言えるんじゃないかな。誰かに勧められたんじゃなくて、何かないかなと探して、これだ! と思ってハマっていったんで、自分で選んだという感覚がすごく強いですね。『キマイラ』も自分が変わっていくことの葛藤が描かれてあるところに影響を受けましたね。学研から出させていただいたデビュー作は、まんま影響を受けていますね。

――それが『ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華』ですね。そういえば、漫画家になりたいと思ったときに、考えていたストーリーはどんなものだったのですか。

誉田 : 「SF必殺仕事人」みたいな感じでしたね。『必殺仕事人』も好きで、高校生くらいから『仕掛人・藤枝梅安』も読んでいましたから。

――SFから時代モノまで読んでいたわけですね。

誉田 : 自分がやっていることと社会との矛盾が描かれているという点では仕掛人も同じですから。ジャンルよりも、そういうことのほうが重要だったんです。

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プロフィール

作家。1969(昭和44)年、東京生れ。2002(平成14)年、『ダークサイド・エンジェル紅鈴 妖の華』でデビュー。2003年、『アクセス』でホラーサスペンス大賞特別賞を受賞。『疾風ガール』『ガール・ミーツ・ガール』など著作多数。