作家の読書道 第102回:椰月美智子さん

講談社児童文学新人賞から作家デビューし、その後はバラエティ豊かな短編集や家族の小説、恋愛小説、さらには赤裸々なエッセイなど作品の幅を広げ続けている椰月美智子さん。意外にも幼い頃は本を読まなかったという椰月さんが、大人になってからよさを知り、今も読み返している作家とは? そして、つい最近、強烈なインパクトを与えられた小説とは? とっても率直な語り口とともにお楽しみください。

その1「言葉に敏感な子ども」 (1/3)

  • ちいさいおうち (岩波の子どもの本)
  • 『ちいさいおうち (岩波の子どもの本)』
    バージニア・リー・バートン
    岩波書店
    691円(税込)
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  • 『じみへん (1) (スピリッツじみコミックス)』
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    小学館
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  • 『かもめのジョナサン (新潮文庫 ハ 9-1)』
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  • 『ノルウェイの森 上 (講談社文庫)』
    村上 春樹
    講談社
    605円(税込)
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――椰月さんはずっと小田原に住んでいらっしゃるのですか。

椰月:そうなんです、小田原から出たことがないんです。

――そうなんですか。幼い頃、本は好きでしたか。

椰月:本当に本を読まなかったんです。家には、石井桃子さんの『やまのたけちゃん』と、『ちいさいおうち』の2冊しかありませんでした。あとは保育園でもらった『チャイルドブック』くらいで、そこに載っている昆虫とか空の写真や、そのキャプションを見るのが好きでした。木にとまっているセミや入道雲の写真などを見ると、目の前に夏の景色が鮮やかに浮かんできてワクワクしました。その『チャイルドブック』に、やなせたかしさんの『バラの花とジョー』というお話が載っていて、それが小さい頃に読んだものでは一番印象に残っています。犬がバラを守るためにカラスに攻撃されて目が見えなくなって、結局は死んでしまう...という哀しいお話なんですが、今探してもどこにもないんです。DVDはあるんですけれど、残念ながら絵が違うんですよね。

――小学校に入学してからはどうでしたか。

椰月:一年生の国語の教科書の最初のページに詩のようなものが載っていて、それはすごく印象に残っています。水彩絵の具みたいな淡いタッチの絵で、海があって波打ち際にカニが描かれていて...。内容はもう覚えていないんですが、やっぱり景色が目の前にさあっと広がって、そのときの感動は覚えています。それと本ではないんですが、信用金庫からもらった粗品の小皿や湯飲みがうちにあって、そこにサトウハチローの短い言葉が書かれてあったんです。お母さんへの思いが、切なく書いてあって...。食事のとき、そのお皿が出るたびに感動してました。

――本はあまり読まなかったけれど、言葉には敏感だったんですね。

椰月:あとは歌詞ですね。小学校2年生の頃、さとう宗幸さんの『青葉城恋唄』の歌詞がすごく好きでずっと歌っていました、すばらしい歌詞です(笑)。あとは堺雅章さんや夏目雅子さんが出ていたテレビドラマ『西遊記』のエンディングテーマだった、ゴダイゴの『ホーリー&ブライト』の歌詞にもやられました。「遠い昔の話で」という出だしにぐっときたんです。え?何それ!って。ただの「昔」じゃなくて、さらに「遠い昔」なんて!「遠い」っていう距離と「昔」っていう時間の言葉をくっつけちゃうなんて!って。すごく素敵だなあと思って、それもずっと歌っていました(笑)。

――ではやはり、ご自身で文章を書くことも好きでしたか。

椰月:好きではないけれど、他の教科に比べたら得意というか。勉強しなくても自分の言葉で書けばいいだけですから(笑)。

――小説以外に、何か他に好きなものはあったのでしょうか。漫画とかアニメとか映画とか。

椰月:漫画もあまり読んではいなかったんですが、『つる姫じゃ~っ!』というギャグ漫画が好きでした(笑)。あとこれは大人になってからですが、中崎タツヤさんの漫画にハマりました。『じみへん』『問題サラリーMAN』など、非常に奥が深いです。映画は、小学校5年生のときに『E.T.』が公開されて、もう大好きで、お小遣いをためて3回観に行きました。そのうち1回は1人で行きました。わざわざ1人で行くなんて、すごい勇気だったと思います。映画の内容ももちろんいいけど、アメリカの生活スタイルが興味深かったんですね。中学生くらいの男の子たちが宅配ピザを頼んで食べて、テーブルの上もぐちゃぐちゃなのに誰も何も気にせずに遊んでいるのがすごいなあと思って。うちだったらものすごく叱られるのに。

――小学生で一人で映画に行くというのがすごい。

椰月:今はもうないんですが、小田原に映画館があったんです。中学生のときもよく友達と自転車で行ってました。マイケル・J・フォックスがすごく人気があった頃ですね。『バック・トゥ・ザ・フューチャー』とか『ティーン・ウルフ』とか。ほかに『ベスト・キッド』とかも流行りましたね。女子高生が着ているアメカジファッションが可愛くて、チアガールの女の子がスニーカーにルーズソックス、チェックのミニスカートに、パーカーの袖を切ったものを着てたりして、ひそかに憧れました。『アウトサイダー』は観たいと思ったときには上映は終わっていたので、これは本を買ったんです。その本はとても好きでした。

――学校の課題図書などで覚えているものはありますか。

椰月:『かもめのジョナサン』。課題図書の中で一番薄いから、というだけの理由で選びました(笑)。中学生の頃までの読書はもう、それで全部って感じで(笑)。高校生になって『ノルウェイの森』を読んで、そこから少しずつ本を読むようになりました。当時流行っていて、私も友達に薦められて読んだんです。本をちゃんと読むのがはじめてと言っていいくらいだったので、衝撃でした。本ってすごい世界だと思いました。なんだこのエロさは、とも思いました(笑)。そこからベストセラー的なものを読むようになりました。村上春樹さんも全部読みました。あとは短大の頃に読んだ景山民夫さんの『遠い海から来たCOO』とか...。卒業した後は会社勤めをしていたんですが、その頃は山田詠美さんや山本文緒さんや江國香織さんなどをよく読みました。

――どのように本を選んでいたのですか。

椰月:作家の方をほとんど知らなかったので、書店に行って平積みされている中からおもしろそうなものを選んでいました。小田原に伊勢治書店という、歴史のある本屋さんがあるんです。夢枕獏さんが昔そこで働いていたという噂です。

――小説以外に、運動や音楽など夢中になっていたものはありましたか。

椰月:何もないです。恋愛ぐらいでしょうか(笑)。

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プロフィール

椰月 美智子(やづき・みちこ) 1970年生まれ。現在、小田原市在住。2002年、『十二歳』で講談社児童文学新人賞受賞。 2006年刊行の『しずかな日々』で、野間児童文芸賞、坪田譲治文学賞をダブル受賞。 その他の著書に『未来の息子』(双葉社)『体育座りで、空を見上げて』(幻冬舎)『みきわめ検定』『枝付き干し葡萄とワイングラス』(ともに講談社)『るり姉』(双葉社)『ガミガミ女とスーダラ男』(筑摩書房)がある。最新刊は『坂道の向こうにある海』(講談社)。