作家の読書道 第103回:前田司郎さん

劇団「五反田団」を主宰し、劇作家、演出家、俳優として活躍する一方で、09年には『夏の水の半魚人』で三島由紀夫賞も受賞し、小説家としても注目されている前田司郎さん。実は、幼い頃から志していたのは小説家。どんな経緯を辿って現在に至るのか、そして大学生の頃に出合った、それまでの本の読み方、選び方を変えた1冊とは。

その1「毎晩、昔話を10話ずつ」 (1/7)

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――前田さんは、五反田生まれの五反田育ちで、実家は工場だったとか。

前田:そうなんです。実家のある場所は御殿山という高級住宅街のふもとで工場地帯だったんです。うちはもう廃業したんですが、鉄の加工をしていた工場で、主にベルトコンベアを作ってました。「ベルトコンベアーで」じゃなくて「を」なんですけど。サントリーなどの飲料会社に卸してメンテナンスなどもやっている中小企業でした。

――あの一帯が工場地帯だったというイメージはないですね。

前田:昔は焼け野原みたいなところだったそうです。そこにソニーの本社なんかがどんどん建っていって今のようになったと父から聞きました。

――幼い頃は本は好きでしたか。

前田:好きだったと思うんですが、人より好きだったかどうかは分からないです(笑)。いちばん読んでいたのは『まんが日本昔ばなし』ですね多分。 B6判の大きさで1箱5冊セットになっているのがうちにあって、毎日2箱、10冊分を父親と母親に読んでもらっていたというのが幼い頃の本との触れ合いです。

――えっ、毎晩10冊。

前田:1冊5分くらいで50分。毎日、というのは印象なので、もしかすると違うかもしれません。最初は姉が買ってもらったんですが、僕のほうが興味をもって、買い揃えてもらったんです。
幽霊系の話が好きでした。「幽霊飴」という話とか。飴屋さんに毎晩遅い時間に飴を買いにくる女の人がいるので、怪しく思った店主が後をつけていったらそこは墓場で、子供を産んで死んだお母さんが幽霊になって飴を与えて育てていた、という話。
実際にその飴屋が京都に存在していたらしいくて、今もあるかどうかは分からないんですが。
あとは「地獄のあばれもの」。インチキ医者とインチキ山伏と、あとは何だったかな、3人が地獄に落とされて大暴れして、閻魔大王に「もういい」って言われて現世に戻ってくる。それ、大好きでしたね。
幼稚園の頃は水木しげるの『妖怪大百科』みたいなものが好きでした。

――怖くなかったんですね。ホラー漫画とかは。

前田:すごく怖がりだったんですけれど、妖怪の話くらいまでは大丈夫でした。
漫画は小学生の頃は禁じられていたので読んでいなかったです。中学に上がったときに解禁になりました。ファミコンも出始めていたけれど、うちではやってはいけなかったから、友達の家でやってました。でも、外で遊ぶのが好きで、僕自身、漫画もファミコンもそんなに求めていなかったのかもしれません。言えば読んだり遊ばせてもらったりできたのかもしれませんし。

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プロフィール

前田司郎(まえだ しろう) 劇作家、演出家、俳優、小説家。劇団 五反田団主宰。 1997年、劇団「五反田団」を旗揚げ。2005年、『愛でもない青春でもない旅立たない』が第26回 野間文芸新人賞候補に。2009年、小説『夏の水の半魚人』で三島由紀夫賞受賞。第46回ギャラクシー賞テレビ部門優秀賞受賞。