その1「夢中になった絵本のシリーズ」 (1/4)
――幼い頃って、どんな本を読んでいたか憶えていますか。
宮下:親が本を読ませたいと思ってくれていたようで、子供のための本が家にいっぱいありました。絵本はすごく読んでいたんですが、よく憶えているのは絵本とレコードが一緒になったシリーズ。いくつかお話が入っていて、最後のひとつのお話や音楽がレコードに入っているんです。金魚屋さんのおじいさんの話では「きんぎょー、えー、きんぎょー」という声が入っていたりして。とにかく小学校にあがる前はそれを繰り返し繰り返し読んでいました。クマの子がお留守番をする話があって、私がそれを読んでは泣いていたらしいんです。「クマの子の気持ちになっている娘」という説明がついた写真が残っているんです(笑)。大きくなって読まなくなって、知り合いのところに赤ちゃんが生まれたときに、あげてしまったんですね。だから何のシリーズだったかもう分からなくて。黄色い装丁だったと思うんですけれど...同世代の人に訊いても知らないと言われてしまうんです。ほかには「こどものとも」のシリーズを親が読み聞かせてくれました。手元に残っていたものを子供が小さい頃に読ませたら、30年以上前の本なのにまったく問題なく楽しんでくれたんですよね。そのなかの「かばくん」という絵本はリズムもよくて、毎晩読んでいるうちに子供が暗譜できるようになったんです。でも、最近になって「昔よく読んだよね」って訊いたら存在すら憶えていなかったんですよ。それがもう寂しくて! 小さい頃にそれほど好きだったものってずっと残っているものだと思っていたのに。
――何かの拍子に思い出すかもしれませんよね。絵本の次には、どんなものをお読みになっていたのでしょう。
宮下:岩波書店の児童向けのシリーズはすごく読みました。少年文庫だけではなくて、箱に入ったシリーズもあったように思います。『秘密の花園』とか『メアリー・ポピンズ』、「ドリトル先生」シリーズ、『ツバメ号とアマゾン号』とか。あとは『大きな森の小さな家』や『赤毛のアン』のシリーズも。「アン」のシリーズは、母が持っていたんです。それも、私の手の届く場所ではなく、自分たちの寝室に大切に置いていたので、母にとっては大事なシリーズだったんだろうなと思います。今私が息子たちに『赤毛のアン』や『秘密の花園』とかを薦めると「女が主人公じゃん!」って嫌がるんですよ。そういうものじゃないでしょう、と思うのに。感情移入の仕方が違うんでしょうね。自分は男の子が主人公のものでも楽しく読んだのに。
――とりわけ好きだった本というのはありますか。
宮下:佐藤さとるさんの『だれも知らない小さな国』です。現実と小説の中の世界を混同していて、小さい人たちは絶対にいるって思って、探していたくらい。とにかく小さな人がいる世界が好きで、そこからいぬいとみこさんの『くらやみの谷の小人たち』や『木かげの家の小人たち』も読みました。今挙げた本は全部小学校低学年で読みましたね。それまでにたくさん読んできて一段落した頃に手にとったのが『メアリー・ポピンズ』で、それが小学3年生の頃だったのは確かなんです。挿絵に出てくる人が担任の先生にすごく似ていて、その先生が3年のときの担任だったので、断言できます(笑)。
――3年生で一段落ついた後は、読書生活は変わったのですか。
宮下:高学年になるとアガサ・クリスティーを読み始めました。これも母が文庫で持っていたんです。『メアリー・ポピンズ』までの読書とは違って、どれだけ驚けるか、ショックを受けられるかを楽しみにしていました。怖くて夜トイレに行けなくなることも。でも『アクロイド殺し』は子供ながらこれは反則だって思ったんです。母も「今までになかった展開で、あまりに怖くて読めなくなった」と言っていました。それでも母が読んだのは女子学生の頃。私が読んだのは小学生のときで、それ以降は何でもまず疑うようになってしまったので、その後はあれ以上に驚く推理小説が出てこなかったですね。小学生で読むのは正しくなかったかも。ほかにはその時その時で流行ったものを読んでいたと思うんですが、記憶が抜けていますね。
――書くことは好きでしたか。
宮下:物心ついたときから書くことは好きでした。作文なんて大得意だと思っていて。1週間に一度、作文の授業があったんですね。いくつもネタがあって、2枚書けというところを5枚も6枚も書いて、先生から評価を受けるというのが楽しみでした。でも、読書感想文は大嫌いだったんですよ。作文とは別物という感覚があって、感想文が書ける人ってすごいなって思っていました。先生は作文が好きなら読書感想文も好きだし上手なんだろうと誤解していましたね。でも普通に順を追って書くことしかできないし、ものすごく苦痛だったんです。
――そこまで違うというのも意外ですね。作文とは別に、自分でお話を作って書いたりはしていたのですか。
宮下:ノートに書いていましたね。『だれも知らない小さな国』の続きなんて、何バージョンも書きましたが、でも終わりまで書いたものはなかった。読み返すとまた違うバージョンを書きたくなっちゃったのかもしれません。今も残っているのですが、へたくそ過ぎて笑えます。ぜんぜん才能ない!