作家の読書道 第115回:高野和明さん

膨大な知識と情報と現実問題を織り込んだ壮大な一気読みエンターテインメント『ジェノサイド』が話題となっている高野和明さん。幼稚園児の頃に小説を書き始め、小学生の頃に映画監督となることを決意。そんな高野さんに衝撃を与えた作品とは? 小説の話、映画の話、盛りだくさんでお届けします。

その1「幼稚園児の頃から小説を書く」 (1/6)

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――高野さんは映画助監督の経験もあるんですよね。幼い頃から映画がお好きだったのではないかと思うのですが。

高野:はい。でもやはり、本のほうが先でした。幼稚園の頃に『日本のおばけ話』という本を、母が夜寝る前に読み聞かせてくれたんです。童心社の本でした。そこでいきなりおばけ話にハマりましたね。「船幽霊」とか「安達が原の鬼婆」といった話を憶えています。同じ頃にひらがなを教わったので、なんとなく自分でも小話を思いつくままノートに書くようになりました。

――え、幼稚園児の頃に、ですか。

高野:はい。そのノートを母がとっておいてくれて、乱歩賞を受賞した時に何十年ぶりかで読み返したんです。短編集になっているんですが、処女作は殺人事件の話でした(笑)。親が日付を書き込んでくれていて、1970年12月28日となってました。幼稚園の先生のコメントも書かれてあって、褒めてくれていて。

――幼稚園児が殺人事件の話を......(笑)。

高野:王様の家来がピストルで撃たれるんですが、刑事が調べるとピストルがおもちゃだったと分かり、王様が喜ぶ、というストーリーでした(笑)。小学生になるとおばけ話の延長で、中岡俊哉さんや南山宏さんといった方々が書いた『世界怪奇スリラー全集』という全6巻のものを読みました。ネッシーとか幽霊の話です。このシリーズではじめて、UFOというものがウルトラマンの中だけのものじゃなくて、現実に目撃されていると知ってすごく驚きました。あとはジュニアチャンピオンコースというシリーズの『推理クイズ・あなたは名探偵』。これがミステリーへの入り口だったんじゃないかな。そこから子供向けの翻案ですけれど、ホームズやブラウン神父、エドガー・アラン・ポー、『猿の手』といった英米のミステリーやホラーを読むようになりました。

――心和むようなものは読まなかったんでしょうか。

高野:そっち方面は鶴書房がペーパーバック版で出していた、スヌーピーの『ピーナッツ・シリーズ』を熟読していました。他には『泣いた赤おに』とか。

――小説は書き続けていたのですか。

高野:小説というのもおこがましいですが、一生懸命書いていました。殺人事件とか、異次元の世界に迷い込む話とか。この頃から並行して映画を見はじめます。小学校2年生の時にスピルバーグの『激突!』を観て夢中になりました。それから母親にせがんで、『ポセイドン・アドベンチャー』や『エクソシスト』などを...。ちょうどアメリカ映画界が大作主義に戻ってきた時期なんですよね。絶好のタイミングでした。まだニューシネマの時代だったら、子供には理解できなかったと思いますから。小3から小4にかけてはブルース・リーのブームもきました。その時、家に8ミリカメラがあることに気づいたんです。あれを使えばカラテ映画が作れると思って、脚本を書きはじめたんですよ。その時は撮ることはできなくて、実際にはじめて映画を撮ったのは小6の時。公園に類人猿が出現して市民を殺してしまい、探偵が登場して...という内容(笑)。

――友達に猿のマスクを被ってもらって撮影したわけですね。

高野:そうそう、そうです。それが初監督作品。『名探偵登場』というおマヌケなコメディ映画があって、今でも時々観かえすんですが、ちょっとそれに感化されていましたね。

――映画の公開情報はどこから得ていたのですか。それに子供料金でも高いのに、よく頻繁に観に行けましたね。

高野:当時は街角に映画のポスターがベタベタ貼ってあったんです。映画館で観ていたのは月に1回くらいだと思います。そもそも、3つ上の兄が日曜日の午前中に塾に通っていたんです。母は「勉強ばかりしていたら人間がダメになる」と考えている人で、午前中に塾に行くなら午後は遊ばせようと思っていたようです。それで適当な娯楽として映画に連れていったら、弟の僕のほうがハマってしまった。小5の時、12月6日の公開初日に『ジョーズ』を観にいったのをよく憶えています。あれを観て将来映画監督になると固く決心したんです。『激突!』のスピルバーグの映画だし、アメリカでも空前のヒットを記録しているし、と期待して観に行って...あれはすごかった。

――テレビは見なかったのですか。

高野:テレビもよく見ていました。『刑事コロンボ』は、ノベライズもほとんど読んでいます。あの時期、映画やテレビのノベライズを読んだのが意外と身になっているように思います。読解力の不足を映像で補えますので。小6の時には『事件記者コルチャック』という番組がありまして、このシリーズは、技術的には最高の脚本だと今でも思います。これで伏線の張り方を学びました。毎週日曜日の放送を興奮して見て、月曜から金曜まで1週間かかって伏線を張った小説を書いて、また日曜日になると『コルチャック』を見て。

――小学生の時にすでに伏線を学んだわけですか!

高野:夢中になって見ると、小学生でも伏線は理解できます。別に勉強しようというつもりはなくて、楽しくてのめりこんでいただけなんですけれど。去年かな、『事件記者コルチャック』はDVDセットが出ましたのでオススメです(笑)。

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プロフィール

高野和明(たかのかずあき) 1964年生まれ。2001年に『13階段』で第47回江戸川乱歩賞を受賞し作家デビュー。 著書に『幽霊人命救助隊』、『夢のカルテ』(阪上仁志との共著)など。 自著のドラマ化『6時間後に君は死ぬ』では脚本・監督も務めた。