WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道>第16回:森 絵都さん
飛び込みをテーマにした青春もの『DIVE!!』を完結させたばかりの森絵都さんの登場です。「作家になろうと思った時、最初に目指したのが児童文学だった」と語るとおり、児童文学の賞も数多く受賞されています。
その読書や本選びには、森さんならではの「ツボ」があるそう。それはシュールで健やかな世界とユーモアのエッセンスということなのですが……。
(プロフィール)
1968年東京都生まれ。第31回講談社児童文学新人賞受賞作『リズム』でデビュー。同作品で第2回椋鳩十児童文学賞を受賞。主な著書は、『ゴールド・フィッシュ』、『宇宙のみなしご』(第33回野間児童文芸新人賞・第42回産経児童出版文化賞ニッポン放送賞)、『アーモンド入りチョコレートのワルツ』(第20回路傍の石文学賞)、『つきのふね』(第36回野間児童文芸賞)、『ショート・トリップ』など。
――森絵都さんは児童文学の賞をいくつも受けられていますが、ご自身の子どもの頃はどんな読書をされていたのですか?
森 : このインタビューに登場された作家さんたちのお話を読ませていただくと、子どもの頃、たくさん本を読んだ方とほとんど読まなかった方がいらっしゃるようですが、私はほとんど読まなかったほうです。でも、じっくり思い返してみると、小学校4年生あたりまでは何かしら読んでいたような気も……。母に連れられて図書館へ通った記憶もあります。
――小4で読書が途切れるのは、何か理由があったのですか?
森 : 単純に、友だちと外で遊ぶのがおもしろくなってしまって。
――その頃、読まれたもので、印象に残っている作品は何でしょう?
森 : 物心のついた時から常にそばにあって、ページをめくった回数が一番多いのは、土方久功さんの絵本『ぶたぶたくんのおかいもの』です。こぶたがお母さんに頼まれてお買いものに出かける、というごくシンプルなストーリーですが、それを補って余りある絵の個性があって。こぶたもこぐまも人間も、出てくるキャラクターがみんなリアルすぎて怖いんですよ。でも、怖いもの見たさでめくらずにいられない。そしてその背景に描かれているものたちが、ヘリコプターとか無意味に飛んでいるんですけど、とてものびのびと自由で健やかな世界なんです。シュールだけど、健やか。10年ぐらい前にもう一度買いなおしました。でも、どちらかというと日本のよりは海外の本をよく読んでいましたね。日本のお話は貧乏で悲しくて最後まで幸せにならないって偏見があったので。
――本を読まない時期はいつまで続いたのですか?
森 : 高3までです。進路の選択を迫られた時、それまで作文くらいしか人にほめられたことがなかったから、これはもうたくさん本を読んで作家になろう、と。それで、なんとなく児童文学の専門学校を選んで。
――それでまた本を読みだしたと。その決断について周囲の反応はどうでしたか?
森 : ぽかんとしていた感じです。何を夢みたいなことを、みたいな声もありました。でも、友だちはおもしろがって応援してくれたかな。専門学校の間もとくに児童文学だけを読んでたわけではなくて、内容よりも表紙で本を選んでみたり。やはりその前後かな、村上龍さんの『コインロッカー・ベイビーズ』を読んでショックを受けたのを憶えています。アネモネに憧れてる男の子も多かったですね、まわりに。
――学校の授業はどういう内容だったのですか?
森 : 児童心理学とか、児童文化論とか、英米児童文学とか、作家論とか……。創作の授業では学生の書いた作品の合評会をやったりもしました。
――当時の森作品への評価はいかがでした?
森 : こてんぱんに酷評された記憶はないですね(笑)。
――その数年うちに、『リズム』という作品で講談社児童文学新人賞を受賞してデビュー。最近では飛びこみ競技をテーマに中高生の青春ものの『DIVE!!』が、第4巻で完結したばかりですが、テーマはどのように決まるのですか?
森 : 常に前と違うこと、新しいことをと思っています。『DIVE!!』の場合は、『カラフル』『つきのふね』とシビアなものを抱える物語を続けて書いた後だったので、なにかスカンと突きぬけたものが書きたくて。スポーツものにしようと決めた時には、迷わず飛びこみ競技を選んでいました。ルールのことなんて何も知らなかったけど、選手たちの心情にずっと興味があったんです。一瞬のうちにすべてが終わってしまう、あれってどんな気分だろうって。
――本屋さんにはよく行かれるほうですか?
森 : うちの近くの駅ビルに本屋さんがあって、電車で出かける前や帰りによく寄ります。さほど規模は大きくないのに私の本が不自然なほど充実していて、いい本屋さんだな、と(笑)。
――森さんの人生を変えた、そんな本はありますか? ちょっと大げさですけど……。
森 : 気に入った本はすぐ人に貸したりあげたりしちゃうから、好きな本ほど手もとに残っていないんです。だから、比較的最近のものから選ぶと、いしいしんじさんの『ぶらんこ乗り』。これはやはりシュールな話で、ねじれた夢の中みたいで、それも決して幸せな夢ではなくて切ないんだけど、その中でも精一杯の健やかさのようなものがあって、ツボを直撃されました。シュールという点では、カズオ・イシグロの『日の名残り』とルイス・サッカーの『穴』もそうかもしれません。カズオ・イシグロに健やかさはありませんが、でもなぜか好きで新刊が出るとすぐに買いますし、もっと翻訳されてほしいですね。
――『穴』は少年が主人公ですね。
森 : 何の罪もないのに少年院のようなキャンプへ送りこまれて穴を掘らされるんです。来る日も来る日もへとへとになるまで掘って、ノルマを果たせないと殴られたり。途中まではもう絶対にこのまま悲惨な終わり方をして、問題提起みたいな形で放り出されるんだって身構えていたんですが、実はある奇跡のようなエンディングへの準備が着々と整えられていて……。しかもその準備は時を超越した大昔から始まっていて、その用意周到さ、奥行きと広がりのある練りに練った設定に圧倒されました。読後感も爽快で、編集者や友だちの間でも評判の良かった一冊です。
――好きな作品のツボは、森さんが書く話にもあるものなのでしょうか?
森 : ない気がします。そこは違うみたいですね。伊井直行さんの『草のかんむり』もシュールで健やか、そして独特のユーモアのある大好きな作品です。主人公の予備校生がカエルになってしまう話で、あまりジタバタせずにカエルの状態を受け入れつつ、何とか人間に戻ろうと冒険に出ます。これもラストがいいんですよね。3回買って、3回とも人にあげてしまったので今は手元にないんですが、また読みたいな。
――では児童文学を読んでみたいという人へのオススメは何になりますか?
森 : さっきお話した『ぶらんこ乗り』や『穴』は児童文学としても読むことができます。それから私がよくすすめるのは、佐藤多佳子さんの『サマータイム』と湯本香樹実さんの『夏の庭』。これらのジャンルはヤングアダルトとも呼ばれて大人も子供にも読まれていますが、本当に良い本がたくさんあります。魚住直子さんの『象のダンス』や角田光代さんの『キッドナップ・ツアー』もおすすめしたい作品です。
(2002年12月更新)
WEB本の雑誌>【本のはなし】作家の読書道>第16回:森 絵都さん