作家の読書道 第169回:深緑野分さん

デビュー短篇集『オーブランの少女』が話題となり、第二作となる初の長篇『戦場のコックたち』は直木賞と大藪賞の候補になり、注目度が高まる深緑野分さん。その作品世界からも、相当な読書家であったのだろうと思わせる彼女の、読書遍歴とは?

その1「ロアルド・ダールに夢中」 (1/7)

  • はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)
  • 『はてしない物語 (エンデの傑作ファンタジー)』
    ミヒャエル・エンデ
    岩波書店
    3,089円(税込)
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  • ねむいねむいねずみ (PHPおはなしプレゼント)
  • 『ねむいねむいねずみ (PHPおはなしプレゼント)』
    佐々木 マキ
    PHP研究所
    1,153円(税込)
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  • かいじゅうたちのいるところ
  • 『かいじゅうたちのいるところ』
    モーリス・センダック
    冨山房
    1,512円(税込)
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  • モモちゃんとアカネちゃんの本(1)ちいさいモモちゃん (児童文学創作シリーズ)
  • 『モモちゃんとアカネちゃんの本(1)ちいさいモモちゃん (児童文学創作シリーズ)』
    松谷 みよ子
    講談社
    1,188円(税込)
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  • ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)
  • 『ぐりとぐら [ぐりとぐらの絵本] (こどものとも傑作集)』
    なかがわ りえこ
    福音館書店
    972円(税込)
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  • ノーム 不思議な小人たち 愛蔵版
  • 『ノーム 不思議な小人たち 愛蔵版』
    ヴィル・ヒュイゲン,リーン・ポールトフリート
    グラフィック社
    6,755円(税込)
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  • 九月姫とウグイス (岩波の子どもの本)
  • 『九月姫とウグイス (岩波の子どもの本)』
    サマセット モーム
    岩波書店
    972円(税込)
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――いちばん古い読書の記憶を教えてください。

深緑:最初は母親に読みきかせをしてもらっていたんです。いちばん憶えているのは、幼稚園に入る前の頃に『はてしない物語』の冒頭ばかりを読んでもらったこと。姉がちょうど小学校にあがるくらいの頃で、姉と私ふたりに読み聞かせてくれたんです。私は冒頭の鬼火とか岩男とかが「世の中がちょっと不穏な感じになってきたぞ」みたいな話し合いをするシーンがすごく好きで、そこばかり読んでもらっていました。それと、現実世界の主人公の名前がバスチアン・バルタザール・ブックスということが個人的にウケて、バスチアンが本を盗んで屋根裏にいって本を開くまでのシーンがすごく好きで、そこばかり読んでもらっていました。

――バスチアンが本の中の世界に行くどころか、本を読むところにも辿りついていないという(笑)。

深緑:そうなんです(笑)。本の中に行くまでの、ざわざわしはじめるところまでが好きなんです。だから本の世界の中の主人公、アトレーユが出てこない。
母や母方の祖母が本が好きな人たちだったので、本はもともと家に結構ありました。祖母がお話を作るのが上手で、勝手に作ったおとぎ話を聞かせてくれたりもしました。同居はしていなかったので、家に遊びに行った時だけでしたが。他には絵本もいろいろ好きでした。『ねむいねむいねずみ』という絵本は、ねずみが眠くて眠くてしょうがないんだけれど、騒音がひどかったり、何か怖いものがあったりして、なかなか眠れないっていう話で。あのシリーズが好きでした。他には、『ゆうびんやのくまさん』シリーズも好きでした。これはイギリスの絵本。『ゆうびんやのくまさん』『パンやのくまさん』『せきたんやのくまさん』『うえきやのくまさん』などいろいろあって、それがすごく好きでした。ほかにも『かいじゅうたちのいるところ』など、海外の絵本を読むことが多かった気がします。
国内ものだと、いわむらかずおさんの「14ひきのシリーズ」、松谷みよ子さんの『ちいさいモモちゃん』シリーズ、それに『ぐりとぐら』が好きでした。母方に伯母が2人いて、祖父母の家に遊びに行った時は『ノーム』という、赤い帽子をかぶったノームという小人の分厚い図鑑があって、それを一番上の伯母から貸してもらって見ていました。おばと姉と3人で近くの公園でノーム捜しをしたりしましたね。タンスに隠れて「ナルニア国ものがたり」ごっこ遊びもしました。
ピアノの先生の家に絵本がいっぱいあって、ピアノがあまり好きじゃなかったのでレッスンはざーっとやって、あとは絵本を読んでいました。『九月姫とウグイス』という本がすごく好きだったんですけれど、サマセット・モームなんですね。あとから知ってすごくびっくりしました。

――インドアな子だったんですか、それともアウトドア?

深緑:完全にアウトドアです。外で遊びまくっていました。幼稚園低学年くらいの頃は、家に帰ると母親に「ストップ!」と言われるんです。廊下やカーペットの上に新聞紙を敷いて「その上を歩け」って言われて、お風呂場に行って、まず頭を洗う。砂がすごく出て、排水溝をしょっちゅう詰まらせていました。

――泥だらけだったということでしょうか。どんな遊びをしていたんでしょう。

深緑:泥遊びをしたり、木に登ったり。男の子も唖然していました(笑)。滑り台から飛び降りたりしていましたから。おたまじゃくしを連れて帰ったらもう足が生えていて「これすぐにカエルになっちゃう!」と言ってすごく怒られて。ザリガニも持って帰っていました。
そうそう、幼稚園に入るから入らないかくらいの頃、いちばん最初の将来の夢は、ねずみになることだったんです。『ねむいねむいねずみ』とか「14ひきのシリーズ」といった、ねずみが主人公の話とかが好きだったし、小さいところに入りたかったんです。でも大人に話すと「ええー、こいつおかしいんじゃん?」みたいな感じで笑われるんですよ。それで私が怒るっていう。大人が嫌いでした。私が一生懸命に喋っているのを大人は笑うんですよね。エレベーターに乗っている時に「生麦生米生卵」が言おうとして言えなくて、大人が笑うのですごく怒ったことがあったんです。自分が大人になってみると「可愛い」って思って笑っていたんだと分かるんですけれど、小さい頃は「なんで笑うんだ、この野郎」という感じでむっとしていました。お愛想をいわれるのも嫌いでした。今から思うと理不尽な子供でした。

――へええ(笑)。その頃、昼は外で遊び、夜は家で本を読むような生活だったんですか。

深緑:そうですね。でも母も姉も本当に読書家だったので、私は「本を読まない」って言われていました。映画は好きだったので、ディズニー映画なんかはよく観ていましたが。

――ええ? お話うかがっていると、小さい頃から結構本を読んでいますよね。

深緑:家のなかでは読んでいないほうだったんです。それで、小学校にあがった後で、見かねた母親がロアルド・ダールの児童書を本屋さんで探して見つけて買ってきたんです。それが『ぼくのつくった魔法のくすり』っていう本で、もう滅茶苦茶面白くて。男の子が主人公で、意地悪なおばあちゃんが一緒に住んでいて、言うんです。「わたしらは、ね。魔法の力を持ってるんだよ。この地上の生きものを、かたっぱしから、へんてこなすがたに変えちまうことができるのさ...」。そのおばあちゃんに一矢報いたい気持ちで、その男の子はある時両親がいない間に、おばあちゃんがいい人になる薬を作ろうとするんです。家じゅうのもの、それこそ親が使っている歯磨きだったり石鹸だったり、洗剤だったり、香水だったりをわーっと大鍋にいれてぐらぐら煮込むと、青色の煙がうわーっと出てくるんですよ。挿絵を見返すと白黒で色なんてついていないので、私は青色の煙が出たという幻覚を見たんです(笑)。それくらい夢中になって読んだんです。
で、ロアルド・ダールがあまりにも面白くて、それから彼の児童書をいっぱい買ってもらいました。うちの母親も本だったらいくら買ってもいいという人だったんです。おもちゃとかアクセサリーとかは絶対買ってくれないけれど、本だけは買ってくれました。買い物に一緒に出掛けると必ず本屋によって「どれか欲しいはあるのか」と言われました。ダールは1、2冊をのぞいでほとんど読んでいると思います。

――ロアルド・ダールは大人向けの短篇集『あなたに似た人』などでも有名ですが、『チョコレート工場の秘密』や『おばけ桃の冒険』などたくさんの児童文学を残していますよね。

深緑:そうです、たくさんあるんです。『ぼくのつくった魔法のくすり』のあとに『いじわる夫婦が消えちゃった!』を読んで、『魔法のゆび』とか『マチルダは小さな大天才』とか『魔女がいっぱい』とかを読んで。『父さんギツネバンザイ』とか『ぼくらは世界一の名コンビ』とか『こちらゆかいな窓ふき会社』とか『オ・ヤサシ巨人 BGF』とか、いろいろあるんですよ。私、全部旧版で読んでいるんです。新版も出ているんですけれど、翻訳が微妙に違っていたり、挿絵が全部クエンティン・ブレイクさんになっちゃってて。クエンティン・ブレイクさんもすごく好きなんですけれど、『おばけ桃の冒険』や『父さんギツネバンザイ』で挿絵を描いていた人もすごく好きなので、旧版のほうが好きなんです。今でも親の家にとってあります。

――お母さんもよくロアルド・ダール選んで与えてくれましたよね。

深緑:母はもともとミステリー作家としてのダールが好きだったんです。児童書を出していることも知っていて、「あの人が書く本だから面白いだろう」と思って『ぼくのつくった魔法のくすり』をぱっと開いて、「これ絶対あの子好きだ」と思ったそうです。他人が好む本と私が好む本が全然違ったんです。姉はわりと『おひさまはらっぱ』とか『いやいやえん』とか「ちいさいモモちゃん」のシリーズといった、本当に後に文学少女になる子が好むような本を読んでいました。でも私は、冒険ものがすごく好きでした。

――他にはどんな本が好きでしたか。

深緑:リンドグレーンの『長くつ下のピッピ』とか『ピーター・ラビット』シリーズ、『くまのパディントン』とか、『くまの子ウーフ』とか。意外に『エルマーのぼうけん』はあまり好きじゃなかったんです。姉はエルマーが大好きだったんですけれど。ほかは『プー横丁にたった家』とか。

――くまが出てくるものが好きだったのでは(笑)。エルマーも、竜以外にいろいろ動物は出てきますけれど...。

深緑:ああ、たぶん、ライオンとエルマーが友達になろうとしないから嫌だったんです。エルマーが好きじゃなかった。あ、そうだ、『おさるのジョージ』も好きだったので、動物がポイントなのかもしれません。ダールの本もたくさん動物が出てくるんですよね。

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  • エルマーのぼうけん (世界傑作童話シリーズ)
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  • クマのプーさん プー横丁にたった家
  • 『クマのプーさん プー横丁にたった家』
    A・A・ミルン
    岩波書店
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  • おさるのジョージチョコレートこうじょうへいく
  • 『おさるのジョージチョコレートこうじょうへいく』
    M.レイ,H.A.レイ
    岩波書店
    972円(税込)
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プロフィール

1983年神奈川県生まれ。2010年、豊かな描写力とトリッキーな構成が高く評価された「オーブランの少女」が第七回ミステリーズ!新人賞佳作に入選する。13年、入選作を表題とした短篇集でデビュー。15年に刊行した初長編『戦場のコックたち』は第154回直木賞候補となるなど、高く評価される。