作家の読書道 第177回:竹宮ゆゆこさん

『とらドラ!』『ゴールデンタイム』などのライトノベル作品で人気を集め、5月に〈新潮文庫nex〉から刊行された『砕け散るところを見せてあげる』も大変評判となった竹宮ゆゆこさん。無力ながらも懸命に前に進もうとする若者たちの姿を時にコミカルに、時に切なく描き出す作風は、どんな読書体験から生まれたのでしょう。インタビュー中に、突如気づきを得た様子も含めてお届けします。

その1「設定づくりが大好きだった」 (1/6)

  • A peanuts book featuring Snoopy (1)
  • 『A peanuts book featuring Snoopy (1)』
    チャールズ M.シュルツ,谷川 俊太郎,Charles M. Schulz
    角川書店
    1,037円(税込)
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  • 新コボちゃん (1) (MANGA TIME COMICS)
  • 『新コボちゃん (1) (MANGA TIME COMICS)』
    植田 まさし
    芳文社
    514円(税込)
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  • アンナ・カレーニナ〈上〉 (新潮文庫)
  • 『アンナ・カレーニナ〈上〉 (新潮文庫)』
    トルストイ
    新潮社
    853円(税込)
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  • うる星やつら 1 (少年サンデーコミックス)
  • 『うる星やつら 1 (少年サンデーコミックス)』
    高橋 留美子
    小学館
    421円(税込)
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――小さい頃からの読書のお話をおうかがいしたいのですが。

竹宮:はい。まず、私、読書家じゃないんですよということを最初に言っておきます。まあ、それは追々分かると思います(笑)。で、小さい頃なんですが、我が家はわりと大人の本でも子どもが読み放題という雰囲気がありまして。それでまず、バーンとあったのがスヌーピー。母がOL時代に買い集めていたツル・コミックの、谷川俊太郎さん訳の『ピーナッツ・ブックス』がおそらく全60巻ありました。それと『サザエさん』。これは日本のどこの家庭にもありましたよね。それから植田まさしですね。

――『コボちゃん』ですか?

竹宮:『コボちゃん』だったら子どもでも読んで問題ないですけれど、あまり子どもにOKな感じではないアダルトな作風のものもありました。でも読み放題でした。たぶん、うちの親は漫画が好きなんですよね。四コマ誌もかなりありました。それと『スピリッツ』と『モーニング』。四コマは母が、青年誌は父が買っていたんじゃないかと思います。親はいまだに読んでいますよ。ただ、そんな家の一角に、なぜか箱入りの『チボー家の人々』がこれもまたバーンと並んでいたんです。さすがに私はインテリアの一部くらいにしか思っていなかったんですけれど、今回この取材を受けるにあたって、うちの母に「ねえ、『チボー家の人々』ってあったよね」と訊いたら母が口を濁して「あ、あれはお父さんの本だから...」って。「お父さんは読んだのかな」と追及したら「ちょっと開いていたところを見たことはあるけれど、"名前を読んだだけで眠くなる"って言ってた」と。もう、母と二人で笑いました。ほかに『アンナ・カレーニナ』もあった気がしますが、それも読んでいたかどうかは謎です。

――きっと「名作でも読むか」と買いそろえたものの...だったんでしょうね。小さい頃とりわけ好きだった作品などはありましたか。

竹宮:私は『うる星やつら』で読み書きをおぼえました。幼稚園の頃、祖父の家に行く道すがら、電車の中でおとなしくさせておきたいからと、駅の本屋さんで絵が可愛いという理由で1冊買ってもらったんです。なぜか1巻ではなくて、途中の巻でした。でもそれがきっかけで、お小遣いをためては1冊ずつ買っていきました。今でもずっと読んでいます。自分にとっては基本中の基本です。

――ご兄弟はいらっしゃいますか。

竹宮:年の近い姉がいて、とても仲がいいんです。母がママさんバレーにハマっていたので結構姉妹ふたりでお留守番をするパターンが多く、いわゆるごっこ遊びや人形遊びを、ものすごい濃度で何時間もやっていたんですよ。それが絶対、今に影響があると思うんですけれど。

――ものすごい濃度で、というのは?

竹宮:たとえばバービー人形がいたとしますよね。姉妹それぞれに家の物件のチラシを出してきて「私の家はこんな感じ」などと設定を出し合っていくと、それが止まらなくなるんです。年の近い姉妹二人がマウントしあいながらとっておきのチラシを出してきて「私の家はこれ」「私のこの家のほうが広い」と言って、もうデュエルなんですよ。いかにリッチで美人で人気者の設定にできるかにかかっているんですが、人形の洋服とか靴といった二人共通のものはトレード要素で、「今日はちょっとそっちのセーターを着せたいから、この靴と交換しない」となる。通貨でしたね。そうやって、設定の段階で2時間とか3時間かかるんです。「今日は何々しましょうね」みたいなストーリーが全然始まらない。で、お母さんが帰ってきちゃうという。それが絶対に自分の今に繋がっていると思うんですが、姉は創作方面にはハマらず、小学校高学年のある日突然相手にしてくれなくなりました。

――そういえば、ウィキペディアに「栃木県出身」とありますが。

竹宮:それ、嘘情報なんですよ。本当はずっと東京なんです。でも、どうやって直せばいいのかわからなくて...。

――そうだったんですか。さて、そして読書方面は。

竹宮:親の本棚には筒井康隆や椎名誠の「あやしい探検隊」シリーズや食べ物シリーズもあって、それも読み放題だったんです。それで、私の記憶があっているのか分からないんですが、小学校低学年の時にたしか椎名誠の『気分はだぼだぼソース』というエッセイのタイトルが面白いと思って、それで読書感想文みたいなものを書いたら、すごく褒められたんです。私、特に他に褒めるべきところがない可哀相な子だったんで、その褒められ体験はすごく影響していると思っています。早生まれなので小学生の頃はみんなと比べて成長が遅いから小さいし、わりとみそっかす状態だった私の、はじめての注目体験、褒められ体験だったので。

――作文が得意、というのはあったんですか。

竹宮:得意というか、自分の中で長く書くブームが訪れた時期はありました。小3くらいの時にノートに長く書くと先生に褒められるので、それで100ページとか書いたんですよ。

――ええっ!小3で?

竹宮:社会科見学のレポートとかでした。でも内容は先生が書いてほしいことではなく、「誰々ちゃんと一緒に歩いて行ったんだけれども、途中で誰々さんが話しかけてきて、それで、お弁当を食べて」っていう。ただ長く書くことだけが楽しいみたいなブームがありました。私に追随して長く長く書く人もいました。でも、私は他のことは何もできなくて。算数も全然できなくて、テスト結果ものび太の答案のようなものでした。

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プロフィール

1978(昭和53)年、東京生れ。2004(平成16)年、「うさぎホームシック」でデビュー。軽快な会話劇を軸に、男女間の生き生きとした恋愛模様を描く書き手として、強い支持を集めている。著書に「とらドラ!」シリーズ、『知らない映画のサントラを聴く』『砕け散るところを見せてあげる』などがある。