その1「子ども向けレーベルを次々と」 (1/9)
――いつも一番古い読書の記憶からお伺いしてるんですけれども、いかがでしょうか。
澤村:物心ついたころから一応、周りに本がありました。小学館の「世界の童話」でしたっけ、金色のカバーがかかっているシリーズがあって、その一部が家にあったんです。明らかに母親が僕に読ませるために買った本だと思うんですけど。それの『アラビアンナイト』の「アリババと40人の盗賊」などをよく読んでいました。日本の話もありましたが、海外の話のほうが絵柄も面白かったし楽しかったという記憶がありますね。海外のスケールの大きい話だとか、食べ物の話に反応していた気がします。
――今考えると、わりと本が好きな子供でした?
澤村:そうですね。よく読んでました。刷り込みじゃないですけど、どうも親が本好きの子供にさせたがっていたようです。幼稚園に入ったら入ったで、毎月金の星社から薄い絵本が届くのでそれも読んでいましたし。もうひとつ印象に残っているのが、今だったらオーディオブックっていうんでしょうけど、当時はまだレコードでお話を聞かせながら絵本を読むものがありました。「コージおじさんのおはなしぶくろ」っていうシリーズがあったんですね。コージおじさんというのは石坂浩二さんのことです。実家に問い合わせてみたら、冊子はもうないけれどレコードは残っていて...(と、鞄から取り出す)。
――わあ貴重なものをありがとうございます!
澤村:ひとつは「わら・すみ・まめ」って話です。これは台所から逃げ出したわらと炭と豆が旅に出ようとするんですけど、川があったのでわらが橋になって炭が渡ろうとしたところ、炭の身体に火が残ってて、わらが焼け落ちて両方死ぬ。豆はそれを見てゲラゲラ笑ったら、真ん中からバカーンって割れて死ぬ。仕立て屋さんがその豆を拾って、かわいそうだから縫ってあげようっていって黒い糸で縫っちゃったものだから、豆にはいつも黒い筋が付いているんですよっていう、何の教訓も無い話です。もうひとつは「ねこのおおさま」というイギリスの昔話ですね。作者もいない伝承系の話だと思うんですが、これはとても面白いので、ぜひ。多分、似たような話がネットに上がってると思います。実は、「わら・すみ・まめ」をiPodに入れてきました。(と、鞄からスピーカーも取り出す)。
――え、スピーカーまで持ってきてくださったんですか!
澤村:これくらししないと、この連載に登場している並みいる文豪たちにはかなわないので...(笑)
(同席するみなで再生された「わら・すみ・まめ」を聴く)
――やっぱり石坂さんのしゃべりがお上手ですよねえ。
澤村:ちゃんと現代的なアレンジがされてて。「当時はガスなんてありませんですから」なんて話をするんですよね。それと、レコードのジャケットのイラストが真鍋博さんなんです。
――ああ、星新一さんの本のイラストなどで有名な、あの。豪華ですねえ。
澤村:レコードは全部持っているんですけれど、冊子はなくしたというのが残念です。
――外で遊ぶのと、家の中で遊ぶのとどちらが好きな子どもでしたか。
澤村:幼稚園に行っても、人に誘われなければ本を読んでるガキだったそうです。みんなが外に遊びに行っても僕は教室で本を読んでました。「呼ばれたら行きますけど」っていう感じで、自分からは行かない。さきほども言いましたが、本はやっぱり海外のお話が好きで、日本のお話はピンときませんでした。『泣いた赤鬼』も、読み聞かせてくれた母が泣くんですけれど、僕は全然分からなくて。大人になって読み返して「青鬼はいい奴だね」と分かったんですけれど。
――海外の話は、「アラビアンナイト」の他にはどんなものが?
澤村:たしか「世界の童話」に入っていたと思うんですが、ポール・バニアンという大男に成長する子の荒唐無稽な話が好きでした。生まれた時から大きすぎて抱っこしてあやせないから、母親が巨大な木の箱に入れて海に流して波にあやしてもらおうとしたら、子どもがバシャバシャと暴れて津波が起きたとか、ポールのために料理する時は巨大なフライパンにスケートの要領でバターを引いてパンケーキを焼くとか。