その1「本が好きな少女」 (1/5)
――いちばん古い読書の記憶を教えてください。
奥田:幼稚園の頃から絵本は読んでいたと思うんですが、記憶に残っているものがなくて。でも、トルストイ著の『3びきのくま』の絵本はよく憶えています。深緑色の表紙で、目がぎらぎらしている熊のイラストがあって。
――女の子が森で迷って一軒の家を見つけて中に入って、スープを飲んでベッドで寝ていたら熊の親子がかえってきて...という話ですよね。
奥田:そうですそうです。親も本が好きだったんですけれど、転勤族だったからか、家にはあまりなかったんです。でもあの本は、表紙が媚びていないのがすごく記憶に残っています。
――奥田さんはプロフィールでは愛知県出身となってしますが、あちこち引っ越しされたのですか。
奥田:愛知の尾張旭の後が埼玉の大宮、京都の亀岡、岐阜の揖斐川町、群馬の沼田で、14歳、中学2年生の時に愛知の豊橋に家を建てて住み始めて、以降は父親が単身赴任をしていました。
――中学2年生までに、そんなに転校したということですね。
奥田:そうなんですよ、そのことが私の性格に深く深く関わってくるんですよ(笑)。
――おや(笑)。『3びきのくま』以降は、どのような本を憶えていますか。
奥田:母親に図書館に通う習慣があったので、私も一緒に行って本を借りていました。読むことは好きでした。電車に長時間乗る時には新しい本を数冊与えておけば大人しかったらしく、楽だったと言われたことがあります。書店の入り口に回転式のラックに入っている「世界名作絵本」みたいなシリーズがあって、それを揃えてもらっていました。「この間ここまで買ったから、次はこれ」みたいな感じで。他は日本の昔話の本も10冊くらい家にありました。有名な童話や昔話はそのあたりで読んだと思います。日本のほうが陰気な印象で、『白雪姫』とか『シンデレラ』とか、海外のお姫様の話が好きだったような記憶がありますね。でも家にこもっていたわけではなくて、外でも遊んでいました。社宅は年の近い子と密な関係になりやすいので、そういう子たちと遊んでいました。
――あ、転勤族ではあったけれど、人間関係を構築するのに苦労はなかったんですか。
奥田:家の周辺で遊ぶ友達には困りませんでした。最初から明るく振る舞えるタイプではなかったので、どこの学校でも転入直後はいじめられましたけれど。はやくから「私は本が好きな人間だ」と自分をキャラクターづけしていて、長い休み時間は図書室で本を読むことも多かったですね。児童書で好きだったのは、まずは手島悠介さんの「かぎばあさん」シリーズ。主人公のちょっと寂しい気持ちのある鍵っ子の問題を、おばあさんが解決してくれる話です。朝活動のような時間に先生が読み聞かせてくれて、そこで知りました。すごく面白くて、学校の図書室で全部読んだと思います。あとは早野美智代さんの「レストラン海賊船」シリーズ、寺村輝夫さんの「こまったさん」「わかったさん」シリーズと、「かいぞくポケット」シリーズ、ルース・スタイルス・ガネットの『エルマーのぼうけん』のシリーズ、斎藤洋さんの『ルドルフとイッパイアッテナ』のシリーズなどです。
『ルドルフとイッパイアッテナ』はちょっとしたアクシデントから野良になってしまった猫、ルドルフの話です。ルドルフは飼い主の女の子の元に戻りたくて、2巻の終わりでようやく戻れたと思ったらもう別の猫がいて。それが衝撃的でした。想像していたハッピーエンドとはまったく違ったので。これらを読んだのが、小学校低学年から中学年にかけてくらいです。
今、娘が小学生で、『エルマーのぼうけん』や「こまったさん」「わかったさん」シリーズを読んでいます。改めて読み返すと、「こまったさん」は絵がすごくお洒落なんですよ。テーブルや車までカラフルで、全部が可愛い。
――お子さんに合わせて読書遍歴を再体験できるのもいいですよね。
奥田:すごく楽しいです。小学校時代はその後、高学年で那須正幹さんの『ズッコケ三人組』にハマり、「ふーことユーレイ」という、主人公がおまじないを唱えたことで格好いい幽霊の男の子が現れて、彼を好きになってしまうというシリーズを好きになりました。作者が名木田恵子さんという、漫画の『キャンディ・キャンディ』の原作者です。